2016年06月07日
ポリーニのベートーヴェン:ディアベッリの主題による33の変奏曲
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素晴らしい名演だ。
演奏時間はほぼ50分ほどだが、ポリーニの演奏は古典的な観念から逸脱しないオーソドックスで堅固な構成美と張り詰めた緊張感に貫かれていて、作品の長さを全く感じさせない。
その構成は勿論彼の明晰なアイデアに支えられている。
変化や起伏の多い小さなヴァリエーションを個々の特徴をつぶさに捉えてその多様さで表現するというよりは、むしろ拘泥を避けて壮大な伽藍を築くエレメントとして奉仕させているところにポリーニらしさが窺える。
そしてこの力強い推進力は第32変奏の4声部の二重フーガに向けて次第に求心力を増して収斂していく。
ベートーヴェンが彼の曲のクライマックスにバロックの遺物とも言えるフーガを頻繁に使うのは興味深いが、ポリーニはここでも明快な対位法の再現の中に豪快で燦然としたピアニズムを響かせている。
最後のメヌエットはこの大曲の余韻を味わうエピローグ風に閉じられているが、その輝きと流れは最後まで失われることがない。
レパートリーの開拓や録音活動では常にマイペースの姿勢を崩さないポリーニは、70歳を過ぎて漸くベートーヴェンのソナタ全曲集を完成させて、彼のよりインテグラルなベートーヴェン像が顕示されたわけだが、ソナタ以外のジャンルでベートーヴェンのピアニズムの世界を知るために欠かすことができないのが変奏曲だろう。
変奏というテクニックはソナタにも、また協奏曲や交響曲にも常套手段として登場するが、ベートーヴェンはそれをあるひとつの目的に向かうテーマの漸進的な発展として位置付けていた。
彼のピアノ独奏用の作品の中でも最も大きな規模を持っている『アントン・ディアベッリのワルツによる33の変奏曲』でもこうした彼の哲学が実践されていて、楽理からは殆んど解放されたような天衣無縫で巨大な構想に基く音楽を実現した、あらゆる変奏曲の中でも傑出したもののひとつに違いない。
録音は1998年で、ポリーニ壮年期の充実した演奏の記録でもある。
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