2016年06月27日
デムスのバッハ:パルティータ(全曲)、ゴールドベルク変奏曲
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ウィーンの大家イェルク・デムス(1928-)のピアノ演奏によるバッハ作品集の3枚組で、パルティータ全6曲BWV825-830と『ゴールドベルク変奏曲』BWV988を収録している。
デムスはフリードリッヒ・グルダ亡き後もイングリット・ヘブラー、パウル・バドゥラ=スコダと共に健在で、実際の演奏活動からは引退しているものの伝統的なウィーン流派のピアノを教授している頼もしい存在である。
彼が生涯に亘って研究している作曲家の1人がバッハで、この曲集の他にも『平均律』全曲を始めとする何種類かの録音があるが、いずれも彼の溢れんばかりの音楽性を変化に富んだ自在なタッチと奥ゆかしい情緒に託した独特の美学が聴きどころだろう。
例えばパルティータ第1番変ロ長調の瑞々しさとダイナミズムはバッハが既にピアノを意識して作曲したかのような印象を与えるし、第3番イ短調での毅然としたスケルツォの主張と、間髪を入れず終曲ジークに入るアイデアが秀逸だ。
また第5番ト長調のテンポ・ディ・ミヌエットは弱音を駆使して殆んどメヌエットの原型を留めないくらい速いが、次に来るパスピエが逆にメヌエットを想起させる自由な発想もデムスらしい。
一方で『ゴールドベルク変奏曲』のテーマの歌わせ方は天上的な美しさを持っている。
アルペッジョを高音から低音に向かって弾く奏法もメロディーに一層可憐な効果を出しているし、最終変奏のクオドリベットも通常は歓喜に満ちた表現が多いが、彼は名残を惜しむかのように静かに奏でて、その抒情性の表出とピアニスティックなテクニックにおいて最高度に洗練された流麗な変奏曲に仕上げている。
70分を超える大曲だが、彼は丁寧な音楽作りと構成力によって冗長になることを完璧に避けている。
デムスはしばしば修復されたフォルテピアノを使ってモーツァルトから初期ロマン派の作曲家の作品をコンサートに採り入れていて、筆者自身彼のピリオド楽器によるシューベルトの夕べを聴いたことがある。
それだけ彼は歴史的な楽器の機能や奏法にも造詣が深く、またその音色にもこだわっていたことが理解できる。
このバッハ作品集でのセッションはピアノ演奏で、使用楽器が明記されていないので断言はできないが、音色から判断するとベーゼンドルファーと思われる。
透明感やきらびやかさではスタインウェイに譲るとしても、その温かみのあるまろやかな音色とソフトな弱音は典型的なウィンナー・トーンで、バッハの作品に特有の味わいを与えている。
ヌォーヴァ・エーラのロゴをつけているが、実際にはメンブランからのリイシュー盤で、ライナー・ノーツに英、伊語による曲目解説があり、録音データは1974年とクレジットされている。
尚トラックを表示した収録曲目一覧には若干のミス・プリントが見られる。
オーソドックスなジュエルケース入りで、欲を言えばジャケット・デザインに洒落っ気がないのが惜しまれるが、これがオリジナル・ジャケットのようだ。
音質は破綻のない時代相応の良好な状態と言えるだろう。
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