2016年07月01日
ベーム&ベルリン・フィルのブルックナー:交響曲第8番(1969年ライヴ)
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ライナー・ノーツの録音データを見ると1969年11月26日ベルリンのフィルハーモニーでのライヴ録音と記載されていて、共演のオーケストラは勿論ベルリン・フィルなので確かにこれまで正規リリースされていなかった初出音源ということになる。
ドイッチュラント・ラジオによる録音のようだが英テスタメント独自のディジタル・リマスタリングの効果もあってオン・マイクで採った骨太で鮮明な音質が甦っている。
録音レベルが高く臨場感にも不足していないし、またそれだけにベームの音楽的構想と音響空間が手に取るように伝わって来るブルックナーだ。
客席からの雑音は演奏終了後の拍手喝采は別として、楽章間の短いインターバルで僅かに聞こえる程度で、演奏中は皆無なのもこの時代のライヴとしては優秀だ。
この演奏は第2稿、つまり1890年バージョンになり、ベームの覇気と練達の技とも言える構築性がバランス良く表れたライヴではないだろうか。
現行の音源では彼が指揮した第8番は他に1971年のバイエルン放送響とのライヴ及び1976年のウィーン・フィルとのセッションが存在するが、それらの中ではこの録音が最も早い時期のものになり、テンポに関してはウィーン・フィルの壮麗な足取りよりは速く、バイエルンの血気に逸る演奏よりは僅かに遅い。
ブルックナーの霧と呼ばれる冒頭からクライマックスでのブラス・セクションの咆哮、そして執拗なまでのモティーフの反復に至るまで常に地に足の着いた音響が特徴的で、明瞭な輪郭を失うことなく音楽を彫琢していくベームによって、ベルリン・フィルが見事に統率されている。
曲中最も長い第3楽章アダージョも小細工なしの正攻法で、流れを堰き止めたりテンションを落とすことなく終楽章に導いていくベームの手法が面目躍如たる演奏で、音響力学による造形とも言えるブルックナーの作法の真髄に迫った素晴らしい仕上がりを見せている。
また指揮者に付き従いながらその構想を成就させるベルリン・フィルの隙のないアンサンブルと余裕のあるパワフルな音量も特筆される。
ベームは相手がたとえベルリン・フィルであっても妥協を許さなかったことが想像されるが、オーケストラのバランスの保持と細部の合わせにもベーム、ベルリン・フィルのコラボレーションと両者の力量が示された演奏だ。
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コメント一覧
1. Posted by 小島晶二 2023年06月04日 07:55
ブルックナーと同郷であるベームにとってブルックナーの交響曲は生涯に渡り大変重要なものでした。しかし丁度ベームのキャリアが開始された頃ブルックナー協会が発足し,改訂騒動に巻き込まれます。さらに,レコーディングに関しては長時間に及ぶブルックナー作品の録音は困難を極めます。こうした事がベームをしてブルックナーのレコード録音を敬遠させた出来事だったのでしょう。
後年デッカがベームにブルックナー録音を依頼した1970年代になってから事情が変化します。3,4番の稀代の名演はベームの魅力が明瞭さと率直さで有ることを証明しました。彼のブル8には1974年5月26日ウィーンフィルとのライヴが有りますが,CD化はされていないでしょうね。本盤はオケはベルリン・フィルで,ブルックナーのスタイルを熟知していた最高のオーケストラとの共演です。すべての条件が奇跡的に整った瞬間を捉えた貴重な録音の登場と言われていますが,私は未聴。残念。
後年デッカがベームにブルックナー録音を依頼した1970年代になってから事情が変化します。3,4番の稀代の名演はベームの魅力が明瞭さと率直さで有ることを証明しました。彼のブル8には1974年5月26日ウィーンフィルとのライヴが有りますが,CD化はされていないでしょうね。本盤はオケはベルリン・フィルで,ブルックナーのスタイルを熟知していた最高のオーケストラとの共演です。すべての条件が奇跡的に整った瞬間を捉えた貴重な録音の登場と言われていますが,私は未聴。残念。
2. Posted by 和田大貴 2023年06月04日 09:15
素晴らしく感動的な出来映えで、これ自身およそ類例のない表現様式をもって屹立する感があります。この作品のもつ構成的な美しさをよくあらわした演奏で、淡々と音楽を運びながらも、ベームの強い意志が貫かれています。緊張感の強い劇性に富んだ表現で、構成的な力強さを誇るもので、巨大な音楽の流れと響きの豊かさが素晴らしく、その造形力はさすがベームです。すべての音の仕組みと音楽運びとが一瞬も指揮理念の統括下から離れず、およそ信じがたいほどの明確な精度と清浄な緊張とをもって貫きとおされています。響きのぐあいがまずわれわれを驚かせるし、ポリフォニックな表現の密度と明快さも素晴らしく、アダージョの美しさもカラヤンの洗練とは異なるロマン的な息づかいがあり、優しさがあります。ベームは昔からブルックナーを得意としていた指揮者だけに、そうした自信が、ベルリン・フィルとの演奏からもよく感じられます。
3. Posted by 小島晶二 2023年06月04日 09:37
となると,ウィーンフィルとのセッション録音やバイエルン放送響とのライヴ盤より高評価という事でしょうか。ウィーンフィルとのライヴ盤も後半2楽章は傑出した快演ですが,前半2楽章が何となくスイングしないやや空回りの演奏に成っている様に感じます。YouTubeで聴くことが出来ます。故吉田秀和氏は1970年代前半がベームの最盛期と仰っていましたが,その頃に5番や9番の演奏が聴きたかったですね。
4. Posted by 和田大貴 2023年06月04日 11:28
ウィーン・フィルとのセッションの最大の欠点は、金管楽器がいささか無機的に響くということでしょう。ベームは、例によって、本演奏においても各金管楽器を最強奏させているのですが、いずれも耳に突き刺さるようなきついサウンドであり、聴いていて疲れるというのが正直なところなのです。また、ベームの全盛時代の代名詞でもあった躍動感溢れるリズムが、セッションではいささか硬直化してきているところであり、音楽の自然な流れにおいても若干の淀みが生じていると言わざるを得ません。本盤をお薦めします。