2016年07月19日
ハイティンク&ロンドン・フィルのヴォーン・ウィリアムズ:交響曲全集
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ベルナルト・ハイティンクがこれまでに完成させた全集ものは数多くの作曲家の作品に及んでいるが、それらは決して偶然に成立したものでもなければ、やっつけ仕事的にこなした録音でもない。
彼がそれぞれの作曲家の作法やその変遷を注意深く研究し、より広い視野から俯瞰した総合的な作曲家像を提示しているところに価値があるのではないだろうか。
このヴォーン・ウィリアムズの交響曲全集も録音データを見ると、1984年の『南極交響曲』を皮切りに最後の第8番と第9番は2000年に完了している。
つまりこの全集は足掛け16年に亘る長期計画を遂行した成果であり、そうした彼の周到な作品分析とそれを実行に移す熱意と根気強さには敬服させられる。
またオーケストラは以前首席指揮者を務めていた旧知のロンドン・フィルであることも、ハイティンクが英国物に強い彼らの能力を最大限発揮させることで、より一層このセットを完全にしている。
実際これらの曲中には作曲家自身によって採譜されたイングランド古謡からのメロディーがモティーフとして頻繁に現れる。
例えば『ロンドン交響曲』でのテームズ河の情景やビッグ・ベンの鐘の模倣などローカル色豊かな作品や、ひんやりとした幻想的な田園風景を想起させる『パストラーレ』や『揚げひばり』、歌詞を伴わないソプラノの声を神秘的に取り入れた『南極交響曲』のような表題的な傾向が濃厚なことは否定できない。
しかしハイティンクによって端正にアナリーゼされたスコアがかなり普遍的に音楽化されていて、安っぽい描写音楽に堕していないのは流石だ。
こうした媚を売ることのない真摯な姿勢と冷静な音楽作りも彼の指揮に共通する哲学だが、また歌手の抜擢にも細心の注意を払っているように思われる。
『海の交響曲』でのソプラノのフェリシティ・ロット、バリトンのジョナサン・サマーズや『ウェンロックの断崖で』のソロを歌うテノールのイァン・ボストリッジはベスト・キャストと言えるだろう。
EMIの録音レベルがやや低いが音質は良好だ。
またバジェット価格なので多くは望めないが、このワーナー・クラシックス・シリーズでは、ライナー・ノーツに簡単な解説と録音データしか印刷されておらず、それぞれの紙ジャケットの裏面かボックスの裏側の曲目と照らし合わせる必要がある。
またソロ及びコーラスの歌詞も省略されている。
尚9曲の交響曲以外には『トマス・タリスのテーマによる幻想曲』、『ノーフォーク・ラプソディー』、サラ・チャンのソロが加わるヴァイオリンとオーケストラのための『揚げひばり』、『沼沢の地方にて』、イァン・ボストリッジのテノールで『ウェンロックの断崖にて』の5曲がカップリングされている。
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