2016年07月21日
リヒテル&ムーティのベートーヴェン:ピアノ協奏曲第3番/モーツァルト:ピアノ協奏曲第22番
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ムーティの明快なオーケストラに支えられてリヒテルがその円熟期の自在な表現力を発揮した演奏である。
ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番ハ短調ではキレの良い弦楽とメリハリを効かせたウィンド、ブラス・セクションに乗って巨匠のピアノが溢れんばかりの音楽性を披露して、聴く者を幸福感で包むような雰囲気がある。
それは腰のすわった堂々たるもので、音楽に没入して自ら楽しみながら曲を展開してゆくその姿勢には、リヒテルならではの貫禄がにじみ出ている。
第2楽章ラルゴは節度のあるカンタービレの中に表出される両者の抒情が極めて美しい。
急速楽章でのそれぞれのカデンツァは作曲家自身のものを採用している。
一方モーツァルトのピアノ協奏曲第22番変ホ長調での彼らの表現は至って軽快で屈託の無い明るい響きを持っているが、曲想を恣意的にいじり過ぎない格調の高さが感じられる。
リヒテルのモーツァルトは、通常の解釈とは趣が異なったもので、それは感覚を魅了することはないが、厳しい精神に裏づけられた意志的な音楽を引き出している。
ふたつのカデンツァはベンジャミン・ブリテンの手になるもので、かなり斬新な印象を与える。
リヒテルは1960年代にブリテンとモーツァルトのピアノ連弾作品でも録音を遺しているので、古典派の作品を現代に活かすというという意味で共感を得ていたのかも知れない。
ムーティは原典主義を貫いていたが、協奏曲のカデンツァに関しては躊躇なく新しいものを認めていた。
その最もラディカルな例がギドン・クレーメルとのパガニーニのヴァイオリン協奏曲集でのクレーメル自身の即興的な超絶カデンツァだろう。
尚オーケストラはどちらもフィルハーモニア管弦楽団で、ムーティが首席指揮者に就任して間もない頃のセッションになるが、既にムーティ流に統制された流麗な歌心とダイナミックな音響が特徴だ。
リヒテルがムーティと初めて協演したのは1972年のザルツブルク音楽祭でのシューマンのピアノ協奏曲で、オーケストラはウィーン・フィルだった。
その時のライヴ録音はオルフェオ・レーベルからリリースされているが、ムーティは前年にカラヤンの紹介で同音楽祭に30歳でデビューを飾ったばかりで、ほぼ同年代のイタリア人指揮者としてはアバドに続いて国際的な演奏活動を始めた直後の意気揚々としたフレッシュな感性が伝わって来る演奏だ。
その後リヒテルとムーティは2回に亘ってロンドンのEMIアビー・ロード・スタジオでセッションを行った。
それがこのCD1曲目の1977年のベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番と2曲目の1979年のモーツァルトの同第22番になる。
音質はこの時期のEMIとしては意外に良く、鮮明で臨場感にも不足しておらず、これは、リヒテルの芸術を味わうには格好の1枚だ。
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