2016年07月29日
リヒテル/EMIコンプリート・レコーディングス
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録音嫌いだったリヒテルだが、結果的には彼の生涯に亘ったセッションとライヴを合わせると皮肉にも立派なディスコグラフィーを遺すことになった。
しかも大手メーカーのドイツ・グラモフォン、フィリップス、デッカやEMIなどからリリースされたリヒテル承認済みの音源以外にもマイナー・レーベルを含めると収拾がつかなくなるほどの膨大な量の録音がCD化されているのが実情だ。
このイコン・シリーズの14枚組はコンプリート・レコーディングスと銘打ってEMIへのセッションとライヴから比較的音質に恵まれた音源を出し尽くしているところにコレクションとしての価値がある。
勿論演奏内容もいずれ劣らぬ優れた水準を示していて、巨匠のプロフィールを伝える貴重なセットと言えるだろう。
ソロではシューベルトの幻想曲『さすらい人』のバドゥラ・スコダ版やヘンデルの組曲がリヒテルの幅広い音楽性と多彩なテクニックを披露していて圧巻だ。
また彼が生涯続けたアンサンブルではボロディン四重奏団との協演になるシューベルトの『ます』がフレッシュな印象を与えて好感が持てる。
ボロディン四重奏団は時として濃厚なロマンティシズムの表出があるにしても巨匠との合わせ技は流石に巧い。
歌曲の伴奏ではここでもフィッシャー=ディースカウとのブラームスの『マゲローネのロマンス』全曲が組み込まれている。
双方ともに全盛期のセッションで、後年リヒテルはフィッシャー=ディースカウが自分の発声と発音に拘って、伴奏にさまざまな注文をつけてくるのに辟易したと回想しているが、仕上がりは非常にすっきりした物語性を伝える秀演だと思う。
協奏曲ではクライバーとのドヴォルザーク、マタチッチとのグリーグとシューマンが名演の名に恥じないものだが、最後のマゼールが振ったプロコフィエフの第5番及びユーリ・ニコライエフスキーとのベルクの室内協奏曲も現代音楽を得意としたリヒテル面目躍如の演奏だ。
問題のセッションはカラヤン、ベルリン・フィルのサポートによるベートーヴェンの『トリプル・コンチェルト』で、モンサンジョンの映画『エニグマ』のなかで彼はこの演奏についてひどいものだったと語っている。
しかし冷静に鑑賞してみるとそれほどひどい演奏とは思えず、少なくともオイストラフ、ロストロポーヴィチ、リヒテルの三者は非常に注意深く合わせているし、カラヤンの指揮も充実している。
むしろ、これだけ個性の強い4人が互いに主張し合い、協調を見出そうとしているところに価値があるのではないだろうか。
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