2016年08月02日

ゲルギエフのムソルグスキー:歌劇《ボリス・ゴドゥノフ》(1869年版及び1872年版)


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オペラにおけるリアリズムの先駆けとなった名作《ボリス・ゴドゥノフ》は、19世紀ロシアが生んだ最も個性的で、しかも後世への影響力も甚大なオペラ史上の金字塔だが、その成立には紆余曲折がある。

このオペラの前にもオペラの作曲を計画していたムソルグスキーだが、その計画は官吏の仕事に追われて悉く頓挫していた。

このオペラが出来たのは、一つは1868年に歴史家のウラディーミル・ニコルスキーに出会ったことと、同じ頃に林野局に転属して作曲の時間を確保できるようになったことがその原因として大きい。

ニコルスキーにオペラの題材としてプーシキンの劇詩『ボリス・ゴドゥノフ』を薦められ、その作品を読んで熱中し、確保できた作曲の時間を費やして猛烈な勢いでこの作品を書き上げた。

1869年に書き上げられたこの作品は、翌年の帝室歌劇場の演目の応募作として歌劇場の事務局に提出されたものの、女性の登場人物が極端に少ないことが問題となって落選してしまった。

この落選したバージョンが、1869年版として、本盤に収録されている。

落選したことで憤慨し、この作品をお蔵入りにしようとしたムソルグスキーだが、周囲の熱心な説得で改訂を施したのが、本盤に収録された1872年版である。

この1872年版は、完成した2年後に一部カットを施された形でマリインスキー劇場で初演されたが、初演に先立って作品の名場面と思しき所を抜粋して先行演奏して初演までの前評判を上げたという。

ムソルグスキーが亡くなった後、盟友のリムスキー=コルサコフが加筆訂正を加えたものの、この盤ではその編曲版を採用せず、ムソルグスキーが楽譜に刻んだオリジナルな形で演奏している。

この録音は、作品が初演された元マリインスキー劇場のキーロフ歌劇場のプロダクションで演奏されている。

1869年版と1872年版で共通するキャストは、クセニア役のオリガ・トリーフォノフ、フョードル役のズラータ・プリチェフ、ピーメン役のニコライ・オホートニコフ、シュイスキー役のコンスタンチン・プルージニコフ、シェルカーロフ役のワシーリー・ゲレロ、ワルラーム役のフョードル・クズネツォーフ、ミサイール役のニコライ・ガシーイエフ、警吏長ニキーチナ役のグリゴリー・カラスセーエフ、乳母役のエフゲーニャ・ゴロチョフスカヤ、ミチューハ役のエフゲーニー・ニキーチン、旅籠屋の女将役のリュボーフィ・ソコロフ、聖痴愚役のエフゲーニー・アキーモフである。

ボリス・ゴドゥノフ役が1869年版ではニコライ・プチーリン、1872年版ではヴラディーミル・ヴァニーエフ、グリゴリー役は1869年版ではヴィクトル・ルツク、1872年版ではヴラディーミル・ガルーシンが歌う。

キーロフ劇場のオーケストラと合唱団を指揮するのは、ヴァレリー・ゲルギエフである。

1869年版に登場し、1872年に登場しない役は侍従の貴族役のユーリ・ラプテフと民衆の声役のアンドレイ・カラバーノフで、1872年のみに登場する役がマリーナ役とランゴーニ役で、前者をオリガ・ボロディナ、後者をミチューハ役のニキーチンが兼任している。

1869年版と1872年版の違いは、まず前者が4幕7場(ムソルグスキーはこの時点で「幕」という言葉は使わず「部」という言葉を使っているらしい)であるのに対し、後者がプロローグ付きの4幕9場(実質的に5幕9場)であることである。

ムソルグスキーの1872年への改訂は基本的に加筆作業が中心だが、1869年版の第4幕の大聖堂の場面は1872年版ではカットされている。

また、こうした改訂で終幕も主役のボリスが亡くなる場面から、聖痴愚が独白をする場面へと替えられている。

ボリスの一代記から、16世紀のロシアの混乱期そのものを描くことによる社会の腐敗への糾弾という意味合いが強くなっているところに、改訂の意義があるのだろう。

この5枚組の盤では、1869年の初稿と1872年の第2稿とをゲルギエフ指揮のキーロフ・オペラの理想的に近い演奏で聴き比べることができる。

演奏は、自分たちの音楽という自負が強く出ており、ゲルギエフの指揮ともどもダイナミックな力感が、ムソルグスキーの音楽の持つ根源的な力を十二分に引き出している。

配役もいいが、とりわけタイトル・ロールと並んでこのオペラの主役を演じる合唱の良さ、指揮の踏み込みの深さが、しばしば鳥肌の立つような迫力を生んでゆく。

ムソルグスキーの音楽自体は、やはり1869年の初稿のほうが表現が直截的で感情移入しやすいのではないだろうか。

1872年の改訂も、その音楽の素晴らしさは減じないが、女声を追加したことで、1869年版にあった素朴な力強さは幾分後退してしまったように思う。

いずれにせよ、1869年の初稿についてはこれを聴かないで真価を云々できまい。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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