2016年08月08日

ゲルギエフのボロディン:歌劇《イーゴリ公》


この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。



ボロディンは19世紀後半のロシア音楽を代表する「国民楽派」の1人であり、西洋近代音楽の伝統に則りつつ、「ロシア的」な音楽を確立することに努めた作曲家である。

『イーゴリ公』は、ロシア古代の軍記物語に取材した歴史物で、日本でいえば、蒙古襲来をオペラにしたような趣の作品である。

ロシア国民楽派の作品には音楽的な色彩が豊かなものが多いが、この作品は中でも特別で、ボロディンは彼の唯一のオペラ作品に25年もかけ、完成を見ずにこの世を去った。

イーゴリの敵はモンゴルと同じ遊牧民族のポロヴェッツ人(ダッタン人)であり、作品の中には有名な「ダッタン人の踊り」をはじめ、当時の民族音楽研究の成果をもとに書かれたエキゾチックな音楽が散りばめられていて、それが作品をいかにも魅惑的なものにしている。

完成度という点では、チャイコフスキーの『エフゲニー・オネーギン』に一歩を譲るが、19世紀ロシアのオペラを代表する傑作の1つと言えるだろう。

それにしても『イーゴリ公』は、誠に不思議なオペラである。

輝かしい歴史絵巻かと思いきや、むしろ戦いのさなかの弱き者、夫の無事を案じつつ留守を守る気高い女性や、奴隷となった者達の望郷の念、敵将に惚れ込み歓待した上、命を助ける将軍、敗戦しつつも祖国に迎えられる大公…、まるで、反戦オペラのようだ。

本盤は、ボロディンの1882年版にいくつかの改訂、未出版の歌曲、新たな作曲も加えたマリインスキー劇場版による録音である。

1988年に35歳の若さでサンクト・ペテルブルクのマリインスキー劇場(当時の呼称はキーロフ)の芸術監督・首席指揮者に就任したゲルギエフは、ソ連崩壊の激動の波を乗り越え、1991年から数多くのロシア・オペラを録音した。

その中でこの『イーゴリ公』は早い時期(1993年)にセッション録音されたもので、傑作に恥じない、水準の高い演奏になっている。

先頃ボリショイ劇場の来日公演で腑抜けた『イーゴリ公』を観せられただけに、ゲルギエフとマリインスキー劇場による覇気に満ちた名演に溜飲を下げる思いである。

ゲルギエフの演奏は匂い立つように美しく、独創的なボロディンの音楽を雄大な流れの中で表現していて、約3時間半、新鮮な魅力に溢れた濃厚な時間を演出してくれる。

ロシア・オペラの傑作の1つとされながら、長大なことも手伝ってかあまり録音が多くなく、決定盤と言える存在がなかったものだけに、このゲルギエフによる全曲盤は貴重である。

この盤の成功の要因は、近年の音楽史的研究成果を取り入れて、導入部の後の、第1幕と第2幕の伝統的な演奏順序を入れ替えたことにある。

その結果、音楽的ハイライトが前半部分に集中してしまったきらいはあるが、劇の構成は随分よくなっている。

有名な「ダッタン人の踊り」など、文句なく素晴らしいし、オーケストラとコーラスの充実した響きにスラヴの熱狂が感じられる。

歌手陣も良く、ヤロスラヴナ役のゴルチャコーワなど、ゲルギエフが短時日でこの劇場に築いたアンサンブルが顔を揃えている。

イーゴリ公は迫力不足という人もいるが、ポロヴェッツ陣営に囚われた場面での独白や、敵将コンチャックとのやりとりは決して悪くない。

イーゴリの妻ヤロスラヴナ、息子ヴラジーミル、敵将の娘コンチャコヴナもそれぞれに魅力的である。

これはロシア・オペラの魅力を十分に堪能できる1組である。

ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング



フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室



classicalmusic at 00:39コメント(0)トラックバック(0)ゲルギエフ  

トラックバックURL

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
メルマガ登録・解除
 

Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

Categories
Archives
Recent Comments
記事検索
  • ライブドアブログ