2016年09月07日
ベーム&ウィーン・フィルのベートーヴェン:交響曲全集[SHM−CD]
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1970年から72年にかけてのセッションだが、今回SHM−CD化されたこともあって音質はきわめて良好になっている。
低音から高音まで無理のない伸展とクリアーな質感が感じられ、ウィーン・フィル特有のシックな音色がより艶やかに響いている。
価格を1枚1500円に抑えていることは評価できるが、ライナー・ノーツは古いものの焼き直しで、24ページほどの曲目解説の中でベームについてはわずか2ページのみしかなく、この企画に当たって改訂しなかったのは残念だ。
筆者は、初めてLPで第2番の終楽章を聴いた時,これは本物だと思った記憶があり、それは第4番の終楽章でも同様に感じた。
あたかもベートーヴェンの音響力学を冷徹に解明したかのような、頑固なまでに真っ正直で作為のない音楽だったからだ。
若い頃は往々にしてエキサイティングで情熱的な演奏に惹かれるものだが、この違いは何だろうという疑問を初めて抱かせてくれたのがベームだった。
彼はベートーヴェンの音楽の中にあえて恣意的な見せ場を作ろうとしない。
むしろ見せ場があるとすれば、それは総てスコアに書き込まれていて、その通りに演奏することによって自ずと明らかになるというポリシーを生涯貫いていたに違いない。
一方でその実現のために彼によって鍛えられ、一糸乱れぬ統一感を与えるウィーン・フィルも相当我慢強いオーケストラであることが想像されるが、奇しくも当時はスター・プレイヤーがひしめいていた、この楽団の黄金期が重なっているのも魅力だった。
それ以来彼らの演奏は欠かさず聴いてきたが、その後1997年にドイツ・グラモフォンからCD20セット計87枚のベートーヴェン全集が刊行された時、期待していたこの全集は選択から外され、カラヤン&ベルリン・フィルのものが組み込まれた。
ポピュラー性から言えば後者は圧倒的な強みを持っていたので、売れ筋から考えれば当然の結果だったかもしれない。
ちなみに先般リリースされたウィーン・フィルの50枚組シンフォニー・エディションでも、ベートーヴェンは第6番と第8番のみがこのメンバーで、他はバーンスタイン、クライバー、アバドの混成になっている。
不運にもベームは他の指揮者に追いやられつつあるが、このセットを聴き込めばそれが不当なものであることが理解できるだろう。
指揮者の中には自己の音楽的表現手段として作品を扱うタイプと、ベームのように作曲家、あるいはその作品にできる限り奉仕してその価値を問うタイプが存在する。
勿論その間のバランスの采配が多かれ少なかれどの指揮者にもあり、一概にその良し悪しを論ずることはできないが、結果的に前者の演奏では聴衆の注意は指揮者個人に払われ、後者ではその興味はより一層作品や作曲家に向けられるだろう。
そうした意味でベームの解釈は、流行り廃れのない、より普遍的な価値を持っているように思う。
またこの一連のセッションの魅力はベームによって統制されたウィーン・フィルの瑞々しいアンサンブルの格調の高さにある。
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