2016年09月17日
巨匠リヒテルの生涯[DVD]
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リヒテルが他界した翌年1998年に制作されたドキュメンタリーで、晩年のリヒテル自身と夫人へのインタビューを中心に、彼の貴重な映像がモンサンジョン独特の手法で繋ぎ合わされている。
作品は2部に分かれていて、合わせて154分の見ごたえある伝記映画でもある。
映像に関しては良くこれだけ集めたと思われるくらい彼の私生活から公のコンサート、またプライベートな演奏画像までがちりばめられた唯一無二の作品としての価値を持っているし、その演奏では驚くほど豊かで多彩なニュアンスを聴かせてくれる。
インタビューの中で彼は日記を読みながら回想している。
多弁な人ではなく、その言葉は朴訥としているが、歯に絹を着せない痛烈なリヒテル語録も含まれている。
例えば教師としての情熱を持つことは演奏家には致命的だ、とも語っている。
しかもそれは彼の師であったネイガウスに向けられている。
またリヒテルがピアノ・ソナタ第7番を初演したプロコフィエフを、何をしでかすか分からない危険人物と言って憚らない。
彼は当時のソヴィエト連邦のアーティストの中では最後に国外での演奏を許された人だった。
父親がドイツ人で彼が銃殺された後、母もドイツに去ったことから当局では亡命を懸念して渡航を妨げていたようだ。
しかし本人自身はアメリカ行きを嫌っていたという証言も興味深い。
また彼自身に関する数々の神話的なエピソードも概ね否定している。
キャンセル魔の汚名も已むに已まれぬ事情からそうせざるを得なかったための結果のようだ。
他の演奏家のインタビューで興味深いのはルービンシュタインやグールドなどで、彼らはリヒテルを絶賛しているにも拘らず本人はちっとも嬉しそうでない。
一方協演者との貴重な映像はブリテンと連弾をしたモーツァルト、フィッシャー=ディースカウとの歌曲や、ヴァイオリンのオイストラフ、カガン、チェロのグートマンなどとの室内楽で、今では名盤として評価されているカラヤンとのベートーヴェンのトリプル・コンチェルトについては全くひどいものだとこき下ろしている。
このモンサンジョンの作品から見えてくるリヒテルは非常に冷静に人物や物事を見極める人で、政治体制や音楽界に対しても常に超然とした精神的自由人の立場をとっていたということである。
スターリンの国葬で演奏したからといって熱烈な共産主義の信望者ではなかったし、楽壇の内情には興味を持たず、ただ出会う人の個人の姿を凝視し真実だけを見続けた。
決して威圧的な態度はとらず、むしろ穏やかだったが、自分の演奏には人一倍厳しかった。
勿論他の演奏家の優れた演奏には賞賛を惜しまなかったが、また欠点もつぶさに見抜いていた。
22歳でモスクワ音楽院に入るまで正式な音楽教育を受けていなかった彼は、一方で少年時代からオペラやバレエの伴奏ピアニストとして奔走し、支払いをジャガイモで受けたこともある人生経験での適応力から、こうした独自の哲学を持つに至ったのかも知れない。
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