2016年10月27日
フルトヴェングラーのベートーヴェン:交響曲全集
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晩年のフルトヴェングラーによるベートーヴェンの交響曲の演奏は、他のレーベルをも含めれば、全曲をウィーン・フィルによって聴くこともできるが、全集という形で手にするとするならば、これが唯一最高のものと言うことができよう。
歴史的名演とも言えるバイロイト音楽祭ライヴの《第9》が含まれているばかりでなく、いくつかの作品は、彼の録音の中でも傑出したものであり、録音条件の不利をこえた価値がそこにはある。
それは、フルトヴェングラーの音楽と精神とが集約されたものと言っても過言ではなく、創造性にあふれた芸術の記録として、いずれも貴重なものである。
ベートーヴェンの演奏も、人が変わり、時代を追ってくるに従って、かなりの変化をみせてきたが、これは永遠の規範ともなり得よう。
極めて陰影豊かな第1番、若々しい音楽を流動させる第2番、端然とした造型の《エロイカ》、深沈として情感を色濃く漂わせた第4番や《田園》、均整感が強く堂々とした第5番や第7番と、どの演奏も強烈な個性をもった雄渾な表情だ。
第8番の音楽的創意の豊かさも比類なく、第9番は劇的で雄大、声楽陣の充実も素晴らしい。
このベートーヴェン交響曲全集のマスターは2010年に同音源がSACD化された時のリマスタリングで、今回レギュラー・フォーマットのCD5枚に収録してバジェット・ボックスとしてリイシューされた。
それ以前のCDに比べると音質はかなり良くなっていて、潤いと艶のあるサウンドが得られているが、9曲の中では最も古い1948年録音の第2番及び第8番の2曲はさすがにスクラッチ・ノイズの彼方でオーケストラが鳴っているといった感触で、他に音源のないことが惜しまれる。
第8番と第9番以外のオーケストラはウィーン・フィルで、この時代の彼らのローカル色豊かな音響とアンサンブルを堪能できるのも特徴だ。
5枚目の第9番は1954年のルツェルン音楽祭ではなく、それより古い1951年のバイロイト・ライヴだが最後の拍手が入らなければセッションと思えるほど音質に恵まれていて、フルトヴェングラーの憑かれたようにテンポを上げていく熱狂的なフィナーレが聴きどころだ。
第7番に関しては新たに発見された未使用のテープからのリマスタリングという触れ込みだった。
確かに1950年の録音としては良好な音源には違いないが、期待したほどの音質の向上は感じられなかった。
いずれにしても交響曲全曲演奏を通してフルトヴェングラーによるベートーヴェンへの独自の解釈、特にそれぞれの楽器の扱い方やダイナミクスがより一層明瞭に感知されるようになり、自在に変化するテンポ感と相俟って特有の高揚感を体験させてくれる。
入門者にも気軽に鑑賞できるリーズナブルなバジェット・ボックス化を歓迎したい。
尚総てがモノラル録音だが、何曲かについては電気的に音場を拡げた擬似ステレオのように聞こえる。
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