2016年11月01日
ベーム&ウィーン・フィルのブラームス:交響曲全集、他
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ドイツ・グラモフォンからブラームス・エディション全8巻が刊行されたのは、確か作曲家の没後100周年を前にした1996年だったと思う。
しかしその全集と更に翌年のベートーヴェン全集に組み入れられた交響曲全集はカラヤン&ベルリン・フィルのものだった。
確かに人気、実力ともに彼らの演奏は圧倒的な強みを持っていたので、当然と言えば当然の選択だったのかも知れない。
だがベーム&ウィーン・フィルによる交響曲全集はあくまでもウィーン流美学にこだわったブラームスで、他の指揮者やオーケストラでは替え難い魅力を持っており、このコンビのスタイル全開の演奏を堪能できるものだ。
また随所に聴かれるソロ・パートやアンサンブルの巧みさ、弦の響きの瑞々しさとウィンナ・ホルンの渋い音色などがベーム晩年の鷹揚かつ洗練された手法で絶妙に統合されている。
交響曲第1番の冒頭や終楽章の追い込みでもベームの指揮はことさら個性を強調したものではないし、迫力を誇示するようなハッタリもない自然体が基調だ。
それは音楽自体が内包するエネルギーの開放であり、オーケストラをこれだけ美しく響かせながら律儀に構築されたブラームスも珍しいのではないだろうか。
緩徐部分では秋の日の静かな森の中を散策しているような木の葉のざわめきや木漏れ日をイメージさせる。
第2楽章での官能的なソロ・ヴァイオリンは当時のコンサート・マスター、ゲルハルト・へッツェルが弾いている。
交響曲第2番は第1番の張り詰めた緊張感から開放された、安らぎと機知に富んだ作曲家のアイデアが面目躍如だ。
冒頭のテーマがウィンナ・ホルンの牧歌的な響きを充分に醸し出していて、この曲全体の雰囲気を決定しているのも印象的だ。
また終楽章でも決して羽目を外さない厳格さには、流石にブラームスを知り尽くしているベームの頑固なまでに堅実な指揮ぶりが健在である。
第3番冒頭のブラス・パートの荘厳な響きは決してスペクタクルな効果を狙ったものではないが、このオーケストラの伝統を背負うような重厚なハーモニーだ。
またしばしば現れる管楽器のソロも弦楽器のたゆとうようなメロディーも、ベームの采配によって雄弁にまとめられている。
第3楽章ポコ・アレグレットのひたひたと忍び寄るような諦観も彼ら独自の表現である。
当時のウィーン・フィルはコンサート・マスターのへッツェルを始めとしてフルートのトリップ、クラリネットのプリンツ、ファゴットのツェーマンやホルンのヘーグナーなどの首席奏者達の全盛期で、彼らがウィーン・フィルの音色やウィーンの演奏スタイルを決定していたと言っても過言ではないだろう。
また第4番冒頭の瑞々しい哀愁も、カラヤン&ベルリン・フィルとは全く異なった枯淡の味わいを持っている。
しかしそれは脆弱さとは無縁で、第2楽章の静謐だが溢れんばかりの幸福感に満たされたオーケストレーションの処理や終楽章パッサカリアの造形美の鮮やかさもベームの卓越した指揮法に負っている。
カップリングには、『ハイドンの主題による変奏曲』、クリスタ・ルートヴィヒのメゾ・ソプラノとウィーン楽友協会の男声コーラスが加わる『アルト・ラプソディー』、そして『悲劇的序曲』の3曲が収録されている。
彼らが『大学祝典序曲』を残してくれなかったのは残念だが、これらの作品にもウィーンの演奏者ならではの情緒が滲み出ている。
それは後半生を同地で過ごしたブラームスの作品の解釈において、ひとつの流儀として受け継がれているのではないだろうか。
『ハイドンの主題による変奏曲』は、端正な音楽作りと上品な佇まいで、数多いこの曲の演奏の中では傑出したセッションと言える。
『アルト・ラプソディー』で歌われるゲーテの『冬のハルツ紀行』は、まさに当時のブラームスの心境を反映させた内面的な独白をアルト・ソロに託している。
クリスタ・ルートヴィヒはウィーン出身ではないが、ベームの薫陶を受けた歌手だけあって指揮者のこだわりをわきまえた理知的で、しかもリリカルになり過ぎない手堅い表現が秀逸だ。
『悲劇的序曲』では、ベームはこの作品のタイトルを額面通りに受け止めるのではなく、むしろ古典派的な様式感を感知させることに注意を払っているようで、それだけにドラマティックな表現はいくらか控えめに留めている。
録音場所は総てウィーンの黄金ホールと呼ばれるムジークフェラインのグローサー・ザールで、1870年オープンの歴史的コンサート・ホールだ。
この演奏会場は内部装飾の豪華さもさることながら、残響の潤沢なことでも良く知られている。
因みに残響時間は1680人の満席時で2秒なので、当然聴衆のいないセッションでは更に長くなる。
曲種によってはそれがいくらか煩わしいこともあるが、こうした純粋なオーケストラル・ワークでは最良の効果を発揮できる。
録音は1975年から77年にかけてのベーム最晩年のセッションになるが、音楽的な高揚と充実感は全く衰えておらず、音質はこの時代のものとしては極めて良好で、楽器間の分離状態、高音の伸びや潤いも時代を感じさせず、臨場感にも不足していない。
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