2016年11月17日
トスカニーニ&NBC響のメンデルスゾーン:交響曲第4番《イタリア》、第5番《宗教改革》、他[SACD]
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プラガ・ディジタルスのハイブリッドSACDシリーズでは初のトスカニーニ演奏集で、メンデルスゾーンの交響曲第4番《イタリア》及び第5番《宗教改革》とワーグナーの《パルジファル》から第1幕への前奏曲、「聖金曜日の音楽」の4曲が収録されている。
オーケストラはメンデルスゾーンの2曲の交響曲がNBC交響楽団で、これは日本では既にXRCDとしてリリースされた音源になる。
ライナー・ノーツによれば第4番は1954年2月28日のカーネギー・ホール・ライヴと26日及び27日のリハーサルからリミックスしたマスターのようだ。
第5番はその前年1953年12月13日の同ホールでのライヴでいずれもモノラル録音だが、臨場感に溢れた良好なサウンドにSACD化によってさらに高音部の潤いと艶やかさが加わっている。
むろん、もっと新しいレコーディングで聴きたいという人は多いだろうが、トスカニーニという往年の名指揮者の実力を知る意味においても、これは1,2を争うものになるはずだ。
一方ワーグナーは1935年6月5日ロンドン・クィーンズ・ホールでのライヴでロンドン交響楽団との協演になる。
音質はやや劣るが時代相応以上で鑑賞に充分堪えられる破綻のない音源である。
ナチによって一時は抹殺された状況にさえおかれたことがあるメンデルスゾーンの音楽は、歴史的に不幸な状態におかれたばかりでなく、その明快さや幸福感を理由に、現在でも不当にその真価が否定されているところもある。
そうした中で、トスカニーニとNBC交響楽団によるこの1枚は、かつては頂点の評価さえ得ていた《イタリア》交響曲ばかりでなく、ポピュラリティにおいてはるかに劣る《宗教改革》においてすら、その音楽の真価を再認識させてくれる。
交響曲第4番イ長調《イタリア》は、トスカニーニの素晴らしさが凝縮された名演で、颯爽として走り抜けるような躍動感と輝かしい歌の魅力はたとえようもなく、彼のラテン気質の音楽性が良く表れている。
ドイツ人であるメンデルスゾーンの手になる《イタリア》に対し、イタリア人のトスカニーニは異を唱えたい部分もあったようだが、《イタリア》とあっては一段とやる気も触発されたようで、一点たりとも曖昧さを残さない完成度の高い演奏で作品の魅力を余すところなく引き出している。
それは第1楽章冒頭の弾け飛ぶピツィカートから明らかで、瞬時に異次元の旅へと聴き手を誘うマジックであり、再現者としての使命感、責任感を音に聴かせた熱演と言えようか。
古典的形式をくっきりと保ちながら、優雅なリリスズムや、またスケルツォ的な性格をすっきりした線やリズムで何の付加物もなく、すぱっと表した行き方は、《イタリア》の特徴をすべて尽くしたものである。
音楽の勢いと緊張力、生きたリズム、完璧なまでに結晶化したアンサンブルと響き、それらを駆使した灼熱の迫力はほんの僅かな隙もなく、しかも弦のメロディはめくるめくばかりの艶やかさを持って歌いぬかれるのである。
第2楽章の軽快かつ流麗なリリシズム、それに続く優雅だが起承転結をわきまえた可憐なメヌエット等が魅力的だ。
終楽章「タランテッラ」の何という逞しさ!遅めのテンポからリズムが地の底まで届けとばかり刻み込まれ、各声部の動きの美しさは他に比較するものとてなく、ついにティンパニがスコア指定のトレモロではなく、コントラバスと同じ音型を激しく強打するクライマックスに到達するのだ。
このティンパニはトスカニーニの加筆版らしいが、作曲家自身が聴いたら卒倒するくらいの連打を加えた熱狂的なサウンドは、メンデルスゾーンらしいか否かはこの際問わないこととして、如何にも彼らしい表現と言えないだろうか。
第5番ニ短調《宗教改革》も圧倒的な名演で、さらにオーケストラの表現力が傑出、ドラマティックだが屈託がなく、クリーンなメロディー・ラインを浮かび上がらせた手法にトスカニーニの面目躍如たるものがある。
その明晰さ、歌のしなやかな流動感、立体的な構築は、この作品の求めるすべてを具現しており、この演奏を聴くことで作品の真価を改めて知らされることになろう。
第4楽章のコラールの旋律が現われてからの盛り上げ方はさながらオペラのフィナーレを聴いているような印象を受けるし、終楽章に聴く壮麗なるエンディングが見事で、トスカニーニの怖さすら知らしめる。
緊張感に満ちた古典的とも言える構成感をみせながら、明快なテンポとリズムとをもって、それらは実に美しく輝かしい歌を聴かせているが、特にその風格の高さは無比のものがあり、荘重な趣を力強く表現して、宗教的素材をもって壮麗な記念祭の歓喜を示した立派な演奏である。
最後のワーグナーは余白を埋めるために収録したと思われるが、溢れんばかりの光彩の中に神々しさを湛えた超一流の美しい表現であることには違いない。
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