2016年11月21日
ベロフのメシアン:幼児イエズスに注ぐ20のまなざし
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ミシェル・ベロフが19歳でメシアン・コンクールに優勝した直後のデビュー録音で、ベロフの才能を世界の音楽ファンに知らしめ、彼の資質が如実に示された記念すべき名盤。
ベロフのかつての名声が、メシアンによって、特にこの《幼児イエズスに注ぐ20のまなざし》の全曲演奏とレコーディングによって高まったことは間違いない。
1969年に録音されたこの演奏には、もちろん、そのことが当然であったということを裏づけるものがあるし、新しいベロフが、もしもそれを再録音したとしても、同じような感興は得られないであろうということは考えられる。
ベロフの天才は一連のドビュッシーなどで明らかだが、その方法論が最も素直に十全に表われたのがこのメシアンであった。
メシアン初期の傑作で、極めて幾何学的な作で20世紀半ばのピアノ音楽の名品であるが、「移調の限られた施法」やら、「音=色」への執着やら、カトリック神秘主義的内容やら、メシアン固有の世界が2時間以上にもわたって展開される(全20曲)。
人類の救済者として生まれた幼児キリストは、父なる神や天使、星、聖母、あるいは時や沈黙、喜悦の精霊などに見守られ、期待をかけられ、最後に〈愛の教会のまなざし〉に到って神の愛が実現する。
曲はメシアン特有のカトリック的な神秘感に満ちた音楽で、極めて深遠かつ晦渋、カトリックに通じていないとわかりにくいところもあるが、おそらく、これしか残さなかったとしても、メシアンは歴史に名を刻んだだろう。
夫人のイヴォンヌ・ロリオを想定して書かれているため、鋭敏な感覚と技術的にも斬新な奏法を含む超絶的テクニックと色彩が千変万化する音色がこの曲では要求されるが、ベロフは見事にそれに対応しシャープなリズム感と音色を披露している。
その切れ味鋭いピアニズムは現在もなお鮮烈で、その鋭敏なリズムの感覚や、独自のタッチがもたらす類稀なサウンドなど、このピアニストの比類ない独自性を明らかにしている。
もっともこの曲集は同時に、途轍もない水準の統合力と同時に強靭な体力も要求するので、これを完璧なバランスで弾き切るのは、本当にわずかのピアニストのそれもある年代に限られるのではないかという気がする。
その意味でこの20歳を前にしたベロフの金字塔的な録音は、音楽という一回性の芸術が残し得た奇跡的な記録として、繰り返し聴かれるべきものであることには間違いない。
大音量の〈全能の言葉〉と妙なる響きの〈聖母の初聖体拝受〉のコントラストが示しているように、ダイナミックスの幅も広い。
こまやかに変化するタッチから生まれる多彩なソノリティが、曲の明暗や層構造を刻銘に描いていく。
〈悦びの精霊のまなざし〉で、土俗的な舞踏から神秘的な部分をへて輝かしい楽想にいたるあたりは圧巻だ。
クライマックスとなる〈愛の教会のまなざし〉も堂々たる風格で、聴き手を圧倒せずにはおかない。
鋭敏なリズム感と音色のヴァラエティも天才的で、ここに聴けるのは極めて硬質な叙情であるが、それがある種の解毒剤として作用し、様々な意味で「過剰」なこの作品に、スッキリとしたたたずまいを与えてくれているように思われる。
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