2016年11月25日

クライバー&バイエルン国立歌劇場のヴェルディ:歌劇《椿姫》


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《椿姫》ぐらい憂愁、甘美なメロディの数々に彩られたオペラも例がなく、筋もわかりやすいので、ポピュラーになるのは当然だ。

様々なとらえ方のCDがあるが、何と言ってもヒロインの歌手が問題になるので、自分のお気に入りのソプラノがいれば、その人のディスクを選ぶのが一番良く、もちろん録音は新しいに越したことはない。

筆者はクライバー盤を選ぶが、彼のオペラ全曲録音の中でも最も出来が良く、このオペラを近代劇としてとらえ、鋭い個性的な表現を行っていて、クライバーの代表盤と言っても差し支えないだろう。

《椿姫》はこの指揮者の数少ないレパートリーの1つであり、速めのテンポできりりと流しつつ、メリハリが立ち、曲想の抉りが深く、音楽とドラマが直結しており、全3幕、起承転結が実に鮮やかで、生気に富み、魅力的で、息もつかせぬ名演と言えるところであり、本当の舞台人の芸を存分に楽しませる。

クライバーの音楽特性のよく表れた演奏で、彼は、ヴェルディの音楽に現代的な感覚を盛り込み、彼独自の音楽の世界をつくりあげていて、イタリア・オペラにしては、造形が厳しすぎる気もするが、大変精度の高い演奏だ。

クライバーという指揮者の才能が何より際立つ録音で、イタリアの歌手主導の演奏に慣れた人には当初違和感を与えるかもしれないが、それも束の間、その旋律を豊かに歌わせた躍動感に溢れる音楽はオペラ・ハウスの上演を超越した感動をもたらす。

クライバーのヴェルディ演奏としては必ずしも100点満点の出来映えではないかもしれず、《椿姫》の演奏としては異端であるかもしれないが、何と素晴らしい異端だろう。

華麗な大オペラに背を向け、暗い影に息づく異端の《椿姫》で、クライバーの魔術的な音楽づくりの魅惑に思わず呪縛されてしまう。

薄幸の主人公を慈しむように、繊細な響きで始まる音楽は、第1幕の引き締まったものへと急転するが、オーケストラが先行する場面でも、歌が先行する場面でも、常に独特の弾みや絶妙の間合いが音楽を支配している。

スタイリッシュで、なおかつ非常にドラマティック、クライバーの指揮は常に生き生きと躍動し、表情豊かに歌い、ささやきのエロティシズムと切ない悲劇性が際立つ。

これが彼の生命線であって、表現の振幅が広いばかりではなく、それによって抒情性に溺れることを速いテンポと猛烈な推進力によって回避しているし、同時に最高に劇的な表現を実現しているのである。

クライバーならではのまことに生彩溢れる演奏であると同時に彼は、第1幕の前奏曲から、このオペラの悲劇性を精妙極まりない表現によって明らかにし、常に生き生きとした流れと劇的で鮮やかな変化をそなえた演奏によって、音楽の最深部にまで的確な光を当てつくしている。

クライバーが本拠にしていたバイエルン国立歌劇場管弦楽団からこのように精緻で陰翳に富んだ響きと表現を引き出した手腕も、まさに至芸と言うべきだろう。

ここにあるのは、単に流麗で感傷的なメロドラマではなく、切実な感情によって動かされ、生きてゆく人間たちのドラマであり、ヴェルディの真の意図が感じ取れる。

歌手陣は必ずしも最強力とは言えず、コトルバスのヴィオレッタはやや独特の癖があるが、その幾分暗い声と非常に細やかな感情表現によって悲劇のヒロインを繊細に演じていて、役柄にふさわしい見事な存在感を示し、クライバーの敏捷だが小振りな音楽によく合っている。

雄弁この上ないオーケストラに支えられた第1幕の長大な歌で、聴く者をうならせたりしないかわりに、線の細いセンチメンタルな歌唱で、肺を患った若く悲しい娼婦ヴィオレッタが同情され涙を誘い胸を打つ。

本来ならミミなどにぴったりのコトルバスを起用して(実演でも歌ってはいるが)、繊細な声の持ち主に重めの役を歌わせるのは1970年代から80年代にかけてのグラモフォンが、特に好んだキャスティングだった。

またドミンゴのアルフレードが素晴らしく、凛々しい声で一本気な青年を好演、ミルンズのジェルモンはややドスが利き過ぎだが、父親の貫禄充分な歌唱を聴かせ、他の歌手もクライバーの指揮に応えてそれぞれベストの歌唱を聴かせてくれる。

これは、クライバーが正規に完成させた商業録音の数少ないオペラ全曲盤の1つで、そのレパートリーでは《ボエーム》も《オテロ》も結局は完成されなかったから、これが唯一のイタリア・オペラのセッション録音による全曲盤ということになり、その意味でも貴重である。

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早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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