2016年11月28日

タッシのメシアン:世の終わりのための四重奏曲/武満徹:カトレーン


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『世の終わりのための四重奏曲』はメシアン唯一の室内楽曲で、第2次大戦中の捕虜となった彼は収容所内でこの曲を書きあげた。

ヴァイオリン、クラリネット、チェロ、ピアノという変わった編成は、たまたまそれらの楽器の演奏者達が同じ収容所内にいたからであり、初演は1941年に収容所内で行われ、ピアノパートを受け持ったのはメシアン自身である。

作品の内容については様々な解釈がなされているが、黙示録に題材を得た8楽章からなる大曲は、全篇平和への強い希求に貫かれ、信仰によって浄化された無類に美しい音の粒が聴く者の胸を打つ。

すべての音は限定された時空の枠を越え、無限の広がりの中で永遠の生へと昇華するが、戦争という極限状態が生み出した異常なまでの精神の緊張がキリストの死と復活のドラマにこれほどの普遍性を与えることに成功したのだろう。

本盤は、1970年代前半に、このメシアンの20世紀室内楽の最高傑作を演奏するために、ピーター・ゼルキンを中心とする当時のアメリカの新進気鋭の名手4人によって結成された「タッシ」が1975年に録音した不朽の名盤。

タッシの実質的なデビュー盤で、武満徹の『カトレーン』初演のために来日した折、柏市とニューヨークで録音されたもの。

この曲の録音はおそらく現代作品の中では最も多く、40前後はあるはずで、その中でタッシの盤はごく初期の方の録音に属するのだが、演奏の上ではいまだに第一級の地位にあるのは驚くべきことだ。

4人の演奏家はそれぞれ独立しても演奏しており、特にピアノのピーター・ゼルキン、クラリネットのリチャード・ストルツマンは有名であろう。

当時30代だったアメリカの気鋭の奏者による演奏は、いずれも清新かつ鋭敏な表現に貫かれており、まことに印象鮮烈で、しかも爽やかである。

最近は音楽も音楽家も言ってることのわりに非常に保守的なので、とりあえず違うものを求める雰囲気に満ちているこれは魅力的。

いくらか神経質に思われるほど俊敏なピーター・ゼルキンのピアノ、精細な感性が光るカヴァフィアンのヴァイオリン、ほのぼのとした響きをもつシェリーのチェロ、そして弱音から強音まで柔らかい響きを奏でるストルツマンのクラリネットと、名うての名手が揃ったアンサンブルは絶妙である。

この作品は楽章によって独奏や二重奏になる部分も多く、第3楽章でのストルツマンの独奏や第8楽章でゼルキンに伴われたカヴァフィアンの息の長い独奏は忘れ難い。

『カトレーン供戮魯織奪靴琉兢によって書かれ、それは武満徹が狎こΔ離織吋潺牒瓩箸覆辰浸期を映した作品で、全曲のカギとなる四行詩(カトレーン)の部分がほのかに芳香が漂うような響きを持ち、心の奥まで浄化されているような気分になれる。

作曲者が「日本の絵巻のように音楽が流れていく」と語るこの曲には、その後の作品に聴けるような猊靄流のロマン瓩あふれており、現代における類稀なメロディ・メーカーとしての実力を発揮しつつあったのではないかと思えるのだ。

タッシというグループが存在したからこそ、武満は自己の中に眠っていたメシアンへの憧憬(オマージュ)を確認し、彼らのために作曲するという行為で「信仰告白」したのではないか、と思える。

これらの録音は、1970年代半ばという時代そのものの記録であることから、ジャケットや、メンバーたちのポートレートを眺めるまでもなく、その音楽には、当時のアメリカの文化状況の刻印は明らか。

現在は活動を停止してしまっているこのユニークなアンサンブルの超絶的な名演として忘れることのできない貴重な記録と言うべきだろう。

演奏の完成度と合わせ、メシアンと武満の作品の受容史という観点からも重要な1枚である。

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classicalmusic at 22:26コメント(1)メシアン  

コメント一覧

1. Posted by Kasshini   2017年09月02日 04:56
初演の聴衆が編成を考えると違和感のない400名だったり、チェロの弦は切れていなかったり、一部の曲はメシアン自身の編曲し直しといくつかメシアン自身の誇張があったようですが、極限状態の中生み出された音楽がサイコホラーものでなく表現主義から戦後の前衛に至る路線とも一線を画した、現代的な響きやリズムを織り交ぜながらも、晩年のベートーヴェン、スメタナ。フォーレ。またブルックナーが指向した自己超越な、そして楽観的なものを感じます。フランクルの著書夜と霧の世界を音楽で表してるように思います。5楽章、8楽章のそれぞそヴァイオリン、チェロとピアノの対話に心洗われます。終戦の黙祷の時に再生していました。

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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