2016年12月20日
シュヴァルツコップSP音源の集成
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20世紀を代表する偉大なソプラノ歌手、エリーザベト・シュヴァルツコップ(1915-2006)がEMIに遺した総てのSP音源を集大成した5枚組で、いわゆる板起こしではなくおそらく当時のオリジナル・メタルマスターから製作したマザーからのリマスタリングと思われるが、想像していたよりも音質が良くスクラッチ・ノイズや破綻もない。
特に彼女の声は非常に鮮明でしかも芯のある響きが採音されている。
実際にSP盤を聴いたことがある方なら蓄音機から再生される人の声が驚くほど肉声に近い音響を再現できることをご存知だろう。
これは当時の録音技術とその再生手段が声の周波数をカバーするために偶然にも最適だったからかも知れない。
ただCD1−3の管弦楽伴奏の曲目の中でも初期の録音では、シュヴァルツコップの背後から聞こえてくるオーケストラは寝ぼけた酔っ払いのように再生されるものもある。
このセットではCD4及び5のピアノ伴奏による1950年代の歌曲集がSP盤の録音としては最も優れたものになっている。
シュヴァルツコップの録音記録は、SP時代からおよそ30年以上におよびレパートリーの広さは前人未到で、1979年の引退間際まで見事なトラックレコードを残した点は特筆に値しよう。
彼女のデビュー当時はコロラトゥーラ・ソプラノとしてのレパートリーが多く、若々しく澄み切った声を華やかな超絶技巧で装飾した唱法が1940年代の特徴で、時に可憐な表情に思わず引き込まれるような表現力豊かな魅力も湛えていた。
例えばモーツァルトのオペラ『後宮からの逃走』のコンスタンツェのアリアやカストラートのために作曲されたカンタータ『エクスルターテ、ユビラーテ』、ヨハン・シュトラウスのワルツ『春の声』などがその頃の彼女の典型的な歌唱である。
一般的にコロラトゥーラ・ソプラノは超高音とアジリタが失われる年齢に達すると歌手生命も尽きてしまうものだが、彼女は賢明にも喉の酷使を避けてより高い音楽性と表現のための確実なコントロールが求められる歌曲の世界を開拓していく。
奇しくも時を同じくしてハンス・ホッターやフィッシャー=ディースカウと共に戦後のドイツ・リート黄金期を築くのもこの時代から始まっている。
しかしそれは彼らのオペラ歌手としてのキャリアと並行していることも事実で、その意味で歌曲が数分間に凝縮されたドラマに喩えられるのも尤もなことだろう。
尚最後の2枚はニコライ・メトネル自身の伴奏による彼の歌曲集とジェラルド・ムーアとのドイツ・リート集で、シュヴァルツコップ30代の、しかし既に確立された多彩な歌唱芸術を堪能できるアルバムになっている。
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