2016年12月22日
ケンペ&ミュンヘン・フィルのベートーヴェン:交響曲全集&序曲集
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ケンペ&ミュンヘン・フィルによるベートーヴェン演奏はどれも既に定評あるもので、渋く底光りするような独特の音響による骨格造形も逞しいアプローチは実に魅力的である。
奇を衒ったところなど全くないが、密度の薄いところも全くないという、実にクオリティの高い全集で、何度聴いても飽きのこない内容だ。
この演奏からオーケストラの個々の奏者の名人芸や離れ技を聴き取ることは難しく、個人技による感覚上の美観は、ここでは強く抑制されている。
従ってここに見られる音楽的美しさは、表層にたなびくものではなく、内に頑固なまでにしがみついたものであり、全9曲まったくムラのない出来だが、第4番から第7番までの演奏は特に強い感銘を与える。
最近では、ベートーヴェンの交響曲の演奏にも、ピリオド楽器を用いた演奏や古楽器奏法の波が押し寄せてきているが、本全集が録音された1970年代は、まだまだ大編成のオーケストラを用いた重厚な演奏が主流であったと言える。
例えば独墺系の指揮者で言えば、カラヤンやベームといった大巨匠が交響曲全集を相次いでスタジオ録音するとともに、クーベリックやバーンスタインによる全集なども生み出されるなど、まさにベートーヴェンの交響曲全集録音の黄金時代であったと言っても過言ではあるまい。
そのような中で、決して華やかさとは無縁のケンペによるベートーヴェンの交響曲全集が、1975年のレコード・アカデミー賞を受賞するなど一世を風靡するほどの評判を得たのはなぜなのだろうか。
確かに、本全集の各交響曲の演奏は、巷間言われているように、厳しい造型の下、決して奇を衒わない剛毅で重厚なドイツ正統派の名演と評することが可能であるが、決してそれだけでないのではないだろうか。
一聴すると、オーソドックスに思われる演奏ではあるが、随所にケンペならではの個性が刻印されていると言えるだろう。
例えば、第2番では、冒頭の和音の力強さ、第2楽章のこの世のものとは思えないような美しさ、第3楽章は、他のどの演奏にも増して快速のテンポをとるなど、決して一筋縄ではいかない特徴がある。
第4番第1楽章冒頭の超スローテンポによる開始、そして第3楽章など、他のどの演奏よりも快速のテンポだが、それでいて、全体の造型にいささかの揺らぎも見られないのはさすがと言うべきであろう。
第5番の第1楽章のテンポは実にゆったりとしているが、決してもたれるということはなく、第1楽章に必要不可欠な緊迫感を決して損なうことなく、要所での音の強調やゲネラルパウゼの効果的な活用など、これこそ名匠ケンペの円熟の至芸と言うべきであろう。
終楽章のテンポはかなり速いが、決して荒っぽさはなく、終結部のアッチェレランド寸前の高揚感は、スタジオ録音とは思えないほどのド迫力と言えるところだ。
第6番の第1楽章は、かなりのスローテンポで、同じようなスローテンポで第2楽章もいくかと思いきや、第2楽章は流れるようなやや速めのテンポで駆け抜ける。
第3楽章に至ると、これまた凄まじい快速テンポをとるなど、必ずしも一筋縄ではいかない個性的な演奏を展開している。
第7番は、冒頭から実に柔和なタッチでゆったりとしたテンポをとり、主部に入っても、テンポはほとんど変わらず、剛というよりは柔のイメージで第1楽章を締めくくっている。
第2楽章は、典型的な職人芸であり、決して安っぽい抒情に流されない剛毅さが支配しており、第3楽章は雄大なスケールとダイナミックな音響に圧倒されるし、終楽章は、踏みしめるようなゆったりしたテンポと終結部の圧倒的な迫力が見事だ。
第8番は、中庸のテンポで、ベートーヴェンがスコアに記した優美にして軽快な音楽の魅力を、力強さをいささかも損なうことなく表現しているのが素晴らしい。
そして、第9番は、ケンぺ&ミュンヘン・フィルによる偉大な本全集の掉尾を飾るのに相応しい圧倒的な超名演。
ここでのケンペの指揮は堂々たるドイツ正統派で、気を衒うことは決してしない堂々たるやや遅めのインテンポで、愚直なまでに丁寧に曲想を描いているが、悠揚迫らぬ歩みによるいささかも微動だにしない風格は、巨匠ケンペだけに可能な圧巻の至芸と言えるだろう。
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団も、ケンペによる確かな統率の下、最高のパフォーマンスを発揮していると評価したい。
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