2016年12月23日

チェリビダッケ&ニルソンによるワーグナー&ヴェルディ:オペラ・アルバム


この記事をお読みになる前に、人気ブログランキングへワンクリックお願いします。



決して経験がない訳ではないにも関わらず、オペラ・ハウスとは疎遠だった巨匠チェリビダッケであるが、コンサートではしばしばオペラの序曲などを好んで指揮していた。

今回のアルバムは、圧倒的な声量を誇ったビルギット・ニルソンとまさにがっぷり四つの名演集で、ワーグナー作品についてはかつてGALAという海賊盤レーベルから出ていたが、劣悪なモノラル音源で当盤とは比較にならない。

ビルギット・ニルソンはノルウェーの伝説的ワーグナー・ソプラノ、キルステン・フラグスタートの後継者たる強靭な声を持ったスウェーデン出身のソプラノだったが、決して野太い大音声の歌手ではなく、むしろ焦点の定まった輪郭の明瞭な声質を完璧にコントロールした怜悧な歌唱でスケールの大きな舞台を創り上げた。

ニルソンの歌唱芸術はスタイリッシュだが恣意的ではなかったために劇場作品のみならず歌曲や宗教曲に至る広いレパートリーを可能にしたと言えるだろう。

当然彼女のオペラ全曲盤やアリア集は多いが、指揮者がチェリビダッケというのは異例中の異例で、しかも非常に高い演奏水準で彼らの超個性的な協演を堪能することができる演奏集である。

特徴的な精緻を極めた弱音、繊細でいながら大きなうねりも生み出す巧みなオーケストラ・ドライヴ、熱い血を持つチェリビダッケが展開する官能美に余裕たっぷりのニルソンの堂々たる歌唱には深い感動とともに痺れる他ない。

特に『ヴェーゼンドンクの歌』では、曲の性格ゆえ『トリスタン』以上に室内楽的な、細やかな響きへの配慮が窺え、見通しがよい響きは、どこかラヴェルのようでもある。

とりわけ「夢」が絶品で、夜の暗闇の中で若いふたりが抱き合う『トリスタン』第2幕を先取りした音楽だが、彼の棒によってまさに夜の空気が震えるような、色がにじむような繊細な音楽が生み出されたことが、この録音からはよくわかる。

チェリビダッケの要求が曲想の官能性よりも神秘的なサウンドの表出に向けられているのが興味深い。

この翌年の再共演が、イタリア・オペラのアリア3曲で、チェリビダッケの音楽づくりはいつもの通り、ヴェルディも熟練の管弦楽作家として描き尽くしているが、ニルソンの顔を潰すような場面はなく、まさに、龍虎相打つと言ったお互いの尊敬が音楽に込められている。

トラック1−8まではストックホルムに於ける2回のライヴから収録された良好なステレオ録音で、演奏終了後に拍手が入っているが客席からの雑音は無視できる程度のごく僅かなもので、音響はややデッドだがそれだけに声楽には適したすっきりとした音像が得られている。

尚トラック9及び10には『トリスタンとイゾルデ』からのリハーサル風景がモノラル録音で入っている。

通常リハーサルに於いて歌手は声量を抑えたソットヴォーチェで歌うことが許されているが、ここでのニルソンはオーケストラのやり直しの部分でも、繰り返しフルヴォイスで応じてワーグナー・ソプラノの貫禄を示して団員からの拍手喝采を受けている。

チェリビダッケはオペラ畑でキャリアを積んだ指揮者ではなく、オペラ全曲録音はセッション、ライヴ共に全く見当たらないが、かと言って彼が劇場作品への能力を欠いていたわけではないと思われる。

彼が大規模な劇場作品に手を染めなかった理由はライナー・ノーツで許光俊氏も指摘しているように、あらゆる妥協の産物に他ならないオペラ上演は、彼にとって受け入れ難い苦痛だったに違いない。

広範囲のジャンルからのスタッフで成り立つオペラ上演では、時として指揮者は彼ら同士の意見の対立を宥め賺して八方丸く治める手腕が求められる。

相手の欠点に容赦なく斬り込んだり、明け透けに毒舌で中傷するようなことがあれば指揮者の降板か、最悪の場合公演はキャンセルに追い込まれてしまうだろう。

チェリビダッケの隠されたオペラへの情熱と指揮法をこのアルバムで垣間見ることができるのは幸いだ。

ところで、クラシック音楽情報ならこちらがオススメです。
人気ブログランキング



フルトヴェングラーのCDなら、 フルトヴェングラー鑑賞室



classicalmusic at 00:16コメント(0)トラックバック(0)チェリビダッケ | ワーグナー 

トラックバックURL

コメントする

名前
 
  絵文字
 
 
メルマガ登録・解除
 

Profile

classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

Categories
Archives
Recent Comments
記事検索
  • ライブドアブログ