2017年01月06日
フリッチャイのモーツァルト:歌劇『ドン・ジョヴァンニ』
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フリッチャイ&ベルリン放送交響楽団によって1958年にステレオ録音されたモーツァルトの『ドン・ジョヴァンニ』全曲盤。
彼の劇場作品への自在に変化する柔軟な指揮法が素晴らしく、歌手達に充分に演じさせながらオーケストラには劇的なアクセントを与えて、テンションを最後まで落とすことのない引き締まったオペラに仕上げている。
フリッチャイがこの作品にどのような構想を持っていたかは知る由もない。
確かにイタリア語で書かれたリブレットはセリフのない叙唱とアリア及び重唱で織り成し、モーツァルト自身ドランマ・ジョコーソと記しているが、牧歌的な愛憎劇というより、むしろ『後宮』や『魔笛』と同一線上に置かれたジングシュピール的な明確な縁取りを持った、個性的な音楽劇に仕上がっている。
それだけにイタリア式の流麗なカンタービレを強調するよりも役柄を的確に描き分けて、それぞれの場面を迅速に活写するスタイルが印象的だ。
いずれにしても他のどの指揮者にも真似のできない独自の『ドン・ジョヴァンニ』を開拓していて、一聴の価値を持っていることは認めざるを得ない。
タイトルロールにはフリッチャイからその才能を見出されたフィッシャー=ディースカウを起用しているところも聴きどころだが、放埓なプレイボーイのスペイン貴族が学者肌の優等生に感じられなくもない。
彼の歌唱は非の打ちどころがないほど演劇的な裏付けがあるし、音楽的にも完璧にコントロールされていることは納得できる。
しかし一方でドン・オッターヴィオ役のへフリガーの宗教曲の権威としてのイメージと、いくらか軽佻浮薄なやさ男ドン・オッターヴィオの性格がマッチせず、勿論真摯な熱演なのだが甘美な軽さが望めないのがいささか残念だと言えなくもない。
女声陣も豪華メンバーによるキャスティングで、モーツァルトによって見事に描き出された役柄をそれぞれが巧みに演じている。
ドンナ・エルヴィーラ役のシュターダーはその強くも脆い性格を良く掴んでいるし、ドンナ・アンナを演じるユリナッチの毅然とした歌唱は騎士長の娘としての存在感を高めた好演だが、ゼーフリートの歌うツェルリーナには世間知らずの純粋さよりも、もう少しちゃっかりしたセクシュアルな表現があっても良かったと思う。
分離状態の極めて良いステレオ録音で、臨場感にも不足していない。
特に歌手陣の声の生々しさに当時のエンジニア達のレコーディングに賭けた意気込みが感じられる。
尚このセッションはフリッチャイのコンプリート・エディション第2巻声楽作品集にも組み込まれていて、その短かった音楽活動において驚異的とも言える質と量の劇場作品を録音し、オペラ指揮者としても面目躍如の能力と手際の良さを示している。
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