2017年01月26日
若杉弘&都響のR.シュトラウス:バレエ音楽全集
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2009年7月に74歳で他界した日本指揮界の至宝、若杉弘が最も愛した作曲家の1人、リヒャルト・シュトラウスのバレエ音楽と交響曲という、かなりマニアでなければその存在すら知られていない秘曲を収録したBOXSET。
若杉は、現代作品のみならず、埋もれていた傑作の日本初演を多く手がけたが、このR.シュトラウスは中でも圧巻の偉大なモニュメントと言える。
ドレスデン国立歌劇場、新国立歌劇場とオペラも知り尽くした若杉ならではの目眩くシュトラウス・クラング!
ニジンスキー・プロジェクトから発した怪物的な《ヨゼフの伝説》、メリー・ゴーラウンド的に楽しい《お菓子のクリーム》、端整・優美な《いにしえの祭り》に、若書きの交響曲とチェロと管弦楽のためのロマンツェまで併録し、R.シュトラウスの管弦楽曲をもっと聴きたいという渇望を一挙に満たすセット。
洒脱で軽妙、ときには上質なパロディすら聴かせるR.シュトラウスのこれらの音楽は、まさに彼の偉大なオペラのシーンを彷彿とさせる作品ばかり。
特に3枚のバレエ作品は欧米でも高い評価を受け発売時、ヨーロッパ市場で好調なセールスを打ち立てた名盤である。
管弦楽法の達人として知られたR.シュトラウスはどんな題材でも音楽化できると豪語していたが、特にオーケストラ音楽を愛好する人たちには数ある交響詩でその名を残している。
しかし、その交響詩に見られる華麗なオーケストレーションの技術は、バレエ音楽でも存分に発揮されていた。
1枚目のCDに収録される《ヨゼフの伝説》は、旧約聖書に出てくるヤコブの11人目の子ヨゼフを題材にしたバレエ音楽である。
ヨゼフはほかの兄弟たちの妬みを買い、奴隷として売られ、富豪(旧約聖書ではジプト王の従者)のポティファルに引き取られるところから始まり、ポティファルはヨゼフが神の恩寵を受けていることを感知し、手厚く迎えた。
妻はヨゼフに色気を出して迫るが、ヨゼフは拒絶したため、その醜態をお付きの奴隷に見られたポティファルの妻は、ヨゼフが自分に迫ってきたと夫に嘘の告発をし、ポティファルはヨゼフを捕縛して拷問しようとするが、そこに天使が舞い降りてヨゼフを救出する。
ヨゼフを追いかけようとする夫人は、それができぬことを嘆き、自害して果て、恐れおののくポティファルを尻目にヨゼフは天使と共にポティファルの家を後にする。
この作品は、4管編成以上の大編成で演奏しなければならないため、上演コストの面で敬遠される。
晩年に作曲者が一般的なオーケストラ編成でも演奏できるよう「交響的断片」として編み直したものが知られるが、その編み直す前の元々のバレエ音楽での録音は、これが初めてだという。
ヴァイオリン・セクションが3パートに分かれ、ヴィオラ・セクションやチェロ・セクションもそれぞれ2パートに分かれるような細密なオーケストレーションを、若杉率いる東京都交響楽団は、本場ドイツのオーケストラもかくやと思わせるほどの丁寧な演奏で再現している。
今後、この原典版によるバレエ音楽の録音が行われたとしても、この録音が廃盤にならない限り、この曲の有用なリファレンスとしてのポジションを保ち続けるだろう。
2枚目の《お菓子のクリーム(泡立ちクリーム)》は、堅信礼のお祝いに子どもが腹一杯のお菓子を食べ、その食べ過ぎで幻想を見るという筋書きのバレエ音楽である。
音楽的には、18世紀の音楽の流儀に始まり、そこで提示された主題をワーグナーのように組み合わせて複雑化させていく手法をとっているが、メロディ・ラインの美しさはお菓子そのものであり、非常にとっつきやすい音楽であろう。
若杉の指揮は実にきびきびとしており、大変表情豊かにこの音楽を再現している。
3枚目に収録されたクープランの作品に基づく2曲は、本来バレエ音楽ではないのだが、バレエ用に振付して上演することも可能なので、この録音集にチョイスされたものであろう。
東京都交響楽団のそつのない演奏で、その典雅さと華麗さを兼ね揃えたオーケストレーションを楽しむことができる。
本CDでは2曲合わせて「いにしえの祭り」というタイトルを与えているが、これは1941年に2曲合わせてバレエとして上演した時に使われたタイトルとのこと。
いにしえの音楽を取材するのは、イタリアの作曲家レスピーギらが盛んに行っていたこともあり、このオーケストレーションの大家と作風を聴き比べてみるのも一興であろう。
東京都交響楽団の演奏は、作品の典雅さを演出するには少し経験値が不足しているようで、各パートで遊び心を感じるのは難しく、各セクションがよく鳴っている割に地味な印象を受ける。
4枚目に収録された交響曲は、作曲者が19歳になろうかという頃の作品で、その作風はメンデルスゾーンの全盛期を彷彿とさせる。
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