2017年02月24日
マーキュリー・リヴィング・プレゼンス・ボックス(第1弾)
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筆者の実家には両親が買い集めたマーキュリー・リヴィング・プレゼンスのLP盤が少なからずある。
それらの中には当時から入手困難だったものも多く、また、気安くコレクションできるような価格でもなかった。
しかし再生した時の音質の良さは、部屋があたかもコンサート・ホールに変わったかのような、劇的なものだったことを今でも良く覚えている。
そしてその後のあらゆる録音に対する筆者の音質評価はリヴィング・プレゼンスが基準になっていると言っても過言ではないだろう。
それは音の鮮明さ、臨場感、そして自然な音響空間などで、オーディオ機器を買い揃える時の目安としても、試聴サンプルとして聴いていたのがこれらだった。
勿論演奏そのものも名演の名に恥じないセッションがきら星の如くあり、その後CDになってから買い換えたものもあって、今回の廉価盤化による大挙放出には複雑な思いだったが、未購入のものも多く、また廃盤の憂き目に遭っているCDもあって結局買ってしまった。
過去にレコーディングされたタイトルは350にも上るが、CD化に伴って曲目は適宜リカップリングされているようだ。
内容は1950〜60年代に制作された米マーキュリー・レーベルのクラシック録音から、代表的な作品をCD50枚に収容。
このシリーズは全部で250種ほどになるが、その3分の1弱がこのボックスに入っていることになる(アナログLPとCDの容量差を活かし、多くの盤で関連作品の楽曲が追加されているため)。
ただし今回の50枚のセットからは除外されている録音も多数あるので、購入されたい方は希望する曲目が含まれているかどうか確認する必要がある。
ちなみに楽曲の構成では近代曲が主体であり、特にソ連やハンガリーなど「旧東側陣営」の作家作品を多く収めているところに特徴がある。
これはマーキュリーレーベルの個性でもあり、RCAやコロムビアがロマン派楽曲を重視したことと好対照だ。
1951年から始まった無指向性1本吊りのモノ・マイクロフォンでスタートしたリヴィング・プレゼンスの録音は、やがて1959年には3本吊りのマイクによる採音と35mm映画用音声テープを使った3トラック・レコーダーへの録音という、決定的な手法を編み出した。
半世紀も前の稚拙な機材とミキシング技術と言ってしまえばそれまでだが、この方法によって現在の録音技術にも匹敵し、ある意味ではそれを凌駕するほどの音質が得られている事も多くの人が指摘している事実だ。
このマーキュリー流儀の録音はシンプルだが空間の再現性に優れ、しかも音に強靭な厚みがある。
これは優秀なマイク(ノイマンU47に代表される管球式コンデンサーマイク)と贅沢な録音機材、そして記録メディアの余裕がなせる技であり、より後年の録音に比べて記録幅のマージン(=ダイナミックレンジ)はむしろ広く取れている。
もちろんテープヒスなどのノイズは多めで、弱音部ではかなり目立つのだが、それよりも強奏部の立ち上がりと歪みの無さが圧倒的。
あのドラティの《火の鳥》から「カスチェイの凶暴な踊り」の冒頭で、打楽器の一撃と金管がサウンドステージを振るわせる部分などは、明らかに実演を超える凄まじさがあり、こういう誇張した表現に説得力を与える巧みさは、現代のハリウッド映画にも通じるものだろう。
彼らのレコーディングは1967年で事実上終了したが、プロデューサーを始め、この仕事に携わったエンジニア達の音に賭けたこだわりと、熱い意気込みがこれらのCDを通じて再び蘇ってくるようだ。
ライナー・ノーツは64ページで、録音時のエピソードと演奏者紹介が写真入りで掲載されている。
ボーナスCDには当時のプロデューサー故ウィルマ・コザート・ファイン女史へのインタビューが収められている。
単に録音が優れたクラシック作品なら、洋の古今で枚挙に暇(いとま)が無いが、マーキュリーの諸作には音楽と録音芸術が見事に一体化した「筋の通った価値」があり、それを創り出していたのが、女性ディレクターとして辣腕を振るったコザートである。
コザートは1953年にマーキュリーの副社長に迎えられ、以後10年にわたってエンジニアのロバート・ファイン(後に彼女の夫となる)らとともにレコードの制作にあたった。
実はこのボックスに収められた50枚は、1990年代にデジタル化された音源を使っている(2000年代のSACD化に使われたDSDマスターとは別音源)。
そのデジタル化に際しては、わざわざ録音当時の機材をレストアして送り出し側に使い、さらにコザート本人を招いて3ch→2chのダウンミックスを行うという念の入れよう。
その作業は必ずしも完璧なものではなかった(ごく一部でレベル調整の瑕疵がある)にせよ、ディレクターの意図を尊重する姿勢を評価すべきだろう。
コザートは2009年にこの世を去り、当時の関係者も残り少なくなってきたが、ここに収められた音楽が色褪せることは無いだろう。
クラシック音楽とオーディオ再生を愛する者にとって、これは必携といえる素晴らしいボックスである。
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