2017年03月26日
シュロモ・ミンツ/青年期のプロフィール
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シュロモ・ミンツが通常使用しているヴァイオリンは後期バロックの名匠、ロレンツォ・グァダニーニ製作の名器である。
この楽器自体美しい音色と潤沢な音量を誇っているが、低音から高音まで明るく澄んだ滑らかな音色と豊かな音量を駆使したミンツの奏法は、それだけでヴァイオリン音楽の典型的な美学を堪能させてくれる。
楽器を決して無理に鳴らそうとしないボウイングから紡ぎだされる知的でスマートなカンタービレやパガニーニに代表される超絶技巧を鮮やかに弾き切るテクニックは、レパートリーを選ばないオールマイティーの奏者であることを証明している。
その意味ではパールマンに共通しているが、ミンツにはパールマンの持っている解放的なサービス精神というか、ある種の媚のようなものが皆無で、情熱を内に秘めたクールな気品が感じられる。
このセットのCD7−8のバッハの『無伴奏ソナタとパルティータ』全曲では対位法のそれぞれの声部を流麗に歌わせながらも恣意的なところが少しもなく、構築性も充分に感知させている。
またもうひとつの無伴奏の対極にあるCD9のパガニーニ『24のカプリース』ではその悪魔的な恐るべき技巧を披露している。
協奏曲の中ではアバドとのメンデルスゾーンやブラームスにミンツの最良の音楽性が発揮されているが、バルトークやプロコフィエフでの鋭利で超然とした感性の表出でも引けを取らない。
またベートーヴェンではシノーポリの堅牢で構造的なオーケストラに支えられて冴え渡るソロも印象的で、終楽章でのテンポを抑えた敢えて名人芸を前面に出さない解釈にも説得力がある。
更に後半のソナタ及び小品集は彼のもうひとつのプロフィールを示していて、凝り過ぎない颯爽とした軽妙さが魅力だろう。
尚30ページほどのライナー・ノーツには収録曲目及び録音データの他に英、伊語によるこの音源の録音時期のミンツのエピソードが掲載されている。
ユニヴァーサル・イタリーの企画になるヴァイオリニストの系譜はグリュミオー、アッカルド、クレーメル、シェリング、そしてリッチと続いているが、今年2017年1月の新譜としてこのミンツ編がリリースされた。
当シリーズの弱点は何故かどれも網羅的な全集ではなく、選曲から漏れた音源が散見されることだが、現在入手困難な演奏も含まれているし、一応それぞれがブックレット付のバジェット・ボックスなので多くは望めないだろう。
しかしミンツは30代で大手メーカーへの録音をやめてしまったヴァイオリニストで、その後もコンサートを中心に演奏活動を続けている。
当ボックスに収録された以外の音源はそれほど多くなく、この13枚で彼の青年期の至芸が充分にカバーされていることは間違いない。
現在円熟期を迎えた彼のこれからの活躍にも期待したい。
ちなみにミンツがドイツ・グラモフォン以外のレーベルからリリースした現行のディスクは仏ナイーヴから指揮とヴァイオリンを担当したストラヴィンスキーの『兵士の物語』、米AVIE RECORSからのモーツァルトのヴァイオリン協奏曲全5曲及びヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲の3枚組、ブラームスの3曲のヴァイオリン・ソナタと2曲のヴィオラ・ソナタ及び共作のF.A.E.ソナタ第3楽章スケルツォを収めた2枚組があり、DVDとしてはクルトゥーア・レーベルの『' 82フーベルマン・フェスティヴァル』の2枚組、チャレンジ・クラシックスからのパガニーニのヴァイオリン協奏曲第1番などがある。
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