2017年05月19日

スメタナSQのベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集


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ベートーヴェンの作品でも弦楽四重奏曲は、作曲者の内面を反映した特別な作品と言える。

それらは、ひとりディスクで聴くにふさわしい規模であり、人生のあらゆる機会に聴き手の内奥に触れる。

音楽のもつ偉大な力を、さらに大規模な作品と同じように痛感させるのも凄い。

そのためベートーヴェンの弦楽四重奏曲は入手できるほとんどのディスクを聴いてきたと思うが、その中で、特に強い感銘を与えられたのが、このスメタナ四重奏団の全集である。

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の全曲演奏が、弦楽四重奏団にとってひとつの究極であるとともに、常にそのマイルストーンとなり得るものであることは間違いなく、それはスメタナ四重奏団にとっても、それは例外ではなかったろう。

モノーラル録音の時代から、彼らはベートーヴェンへのアプローチを重ねてきたし、メンバーの交替はあっても、一貫してボヘミアの伝統を生かした美しい音とアンサンブルによって、深く格調の高い演奏を緻密に展開してきた。

全集と言えば、かつてのブダペスト四重奏団が練達の境地でひとつの高峰を築いていた。

最近の東京クヮルテットの新鮮な表現も忘れ難いが、音楽の大きさにおいて、まだスメタナ四重奏団の最後の録音には及ばない。

スメタナ四重奏団は深い精神性とアンサンブルの集中力において、依然、他の追随を許さない。

弦楽四重奏のひとつの理想を達成した演奏であり、初期、中期、後期のいずれもが確かに作品の本質をあらわにしている。

本セットに収録されているのは1976年から85年にかけてのデジタル録音で、スメタナ四重奏団としては2度目の録音になるが、1回目は全集として完結していないので事実上これが彼らにとってはベートーヴェンが書いた17曲の弦楽四重奏曲(このうち1曲はピアノ・ソナタからの編曲)の唯一の記念碑的な全曲集になっている。

スメタナ四重奏団は古典から現代に至る膨大なレパートリーを総て暗譜によって演奏したが、とりわけベートーヴェンは精力的にコンサートのプログラムに取り入れた作曲家の1人だった。

彼らの公式演奏記録によれば1945年の結成から1989年にキャリアを終えるまでにベートーヴェンの弦楽四重奏曲のみで合計1490回、また音楽性の表出や演奏技術面においても難解とされる同後期作品だけでも654回取り上げている。

しかも1956年以降は最後までメンバー不動で活動を続けた、まさに百戦錬磨のカルテットでもあった。

スメタナ四重奏団は、モノーラル時代からベートーヴェンを何度も録音してきており、レーベルもウェストミンスター、スプラフォン、そしてデンオンと変わった。

それぞれの演奏が、今も光彩を放っているが、やはり音楽の深さにおいて、最後のデンオンへの録音が感動的である。

演奏の全体的な印象としては、第1回目の覇気はやや影を潜めたが、全曲を貫く奇を衒わないごく正統的なアプローチは筋金入りだ。

長年のキャリアと経験によって培われた阿吽の呼吸と鍛え上げられた緊密なアンサンブルを絶妙にコントロールして、清澄な響きの中に洗練された音楽性を醸し出す奏法は、彼ら独自の境地を切り開いていて感動を禁じ得ない。

彼らのベートーヴェンはヨーロッパの伝統様式を踏襲しながら、それを新古典的な感覚で生かしており、内面から湧き上がる表情の深遠さは類を見ない。

しかも弦の響きの美しさとアンサンブルの清澄さ、室内楽的な融合と統一においても、彼らを凌ぐベートーヴェンは未だ存在しないと言える。

その感情を極度に抑制し、作為的なこわばりのない自然な音楽の姿を作り出していく技術の確かさには、ただ驚き入るばかりだ。

アナログ録音は、やや禁欲的に過ぎるきらいがあるが、デジタル録音では、持ち前の透明度の高い音色の中から暖かい情感が滲み出てくるあたりの味わいの深さが凄い。

作品に深く傾倒することによって、透徹した格調高い音の世界を生み出しており、特にベートーヴェンの晩年の心境を抉り出した後期の作品が素晴らしい。

彼らのベートーヴェンは、ハイドンもモーツァルトでもそうだが、弦楽四重奏の美学を終局にまで追い詰めた稀に見る完成度の高い名演なのだ。

それは、彼らの歴史の究極であるばかりではなく、室内楽のひとつの規範ともなり得よう。

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