2022年04月06日

戦後ドイツが生み出した最高の弦楽四重奏団の最善の成果が示されたズスケ(旧ベルリン)SQのベートーヴェン:弦楽四重奏曲全集


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カール・ズスケは、1962年にベルリン国立歌劇場管弦楽団(シュターツカペレ・ベルリン)のコンサートマスターに引き抜かれ、1965年に同僚と語らってズスケ弦楽四重奏団を結成、1966年にジュネーヴ国際コンクールに入賞した。

ズスケは多忙な国立歌劇場の仕事の合間を縫って室内楽に取り組み、やがてベルリン弦楽四重奏団と改称し、国際的にドイツ民主共和国(東ドイツ)最高の室内楽団と評価されることとなった。

それとともにズスケは室内楽の名手として名声を高め、数々の優れた室内楽のレコードを残したが、このベートーヴェンはこの団体の代表的名盤である。

ベートーヴェンの弦楽四重奏曲全集には文字通り歴史的名盤がいくつもあって、どれひとつとして聴き逃せないことは勿論であるが、筆者が比較的少数派という自覚付きながらまず真っ先に選ぶのは(旧)ベルリン弦楽四重奏団の全集である。

おそらく戦後ドイツが生み出した最高の弦楽四重奏団の1つの最善の成果が示された演奏で、極めて端正で清潔な表現と清々しい響きに彩られたベートーヴェン。

しかし単にすっきりしているというのではなく、その中に自在で柔軟性に富む表情と豊かな感興が息づいていて、ズスケの叙情性豊かな表現が、緩徐楽章だけでなく随所に効果的である。

強い自己主張を打ち出すよりも、作品に真摯に奉仕することにより、内から自然と滋味が滲み出てくるような秀演である。

旧東ドイツに属するとは言え演奏スタイルは決して古めかしくなく、むしろ優れて今日的で、どの曲、どの楽章を聴いても明確な表現をもった積極性に溢れた音楽が繰り広げられている。

つまり、これは感情のみを第一義とした旧時代的な演奏ではなく、もっと堅固にまとめられた、切れ味の鋭い音楽をつくっている。

そのためには、ベートーヴェンの与えた指定を少しもないがしろにせず、それを曖昧でなく鮮明に示して、すみずみまで迫力に満ちた演奏である。

ズスケ以下切れ込みの鋭い踏み込んだ表現が光り、しかも無用な情熱に駆られることなく、悠然たる歩みと堅固な造形感に貫かれた堂々とした演奏が展開されている。

これは極めて透明度の高い、そして古典的美しさを端正な造形で表現した演奏であるが、ズスケを中核とするメンバーは、瑞々しくも感情の潤いに満ちた音楽を歌っているのである。

全体に精神の輝きと自在な表情に満ちた生命感に溢れており、アダージョ楽章における気品を湛えた崇高な表現も出色である。

4人の奏者の均質で透明な響きが実に美しく、ズスケをはじめ、チェロのブフェンダーや内声も感興に溢れる素晴らしい演奏を展開する。

各声部の自発性豊かな表情と声部間の応答の敏感軽妙なこと、練れた柔らかい響きときめ細かな表情にも感心する。

この団体は、表情が決して粘り過ぎず、響きもいぶし銀のように底光りのする光沢と透明感があり、表現も一見淡泊であるが、実に細やかな神経が行き渡っており、各奏者の反応も敏感で清々しい。

これほど美しい造形と精神性のバランスのとれた演奏は少なく、奇を衒わない正統的な表現でここまでの深みを出せる団体は現在でも多くはない。

初期作品は、古典的で均整の取れた佇まいを、何のケレン味もなく実に落ち着いた余裕を感じさせるアンサンブルで見事に描き出している。

中期作品では、とかく熱を上げすぎバランスを崩す演奏が多いなかで、これは極めて落ち着いた盤石の安定感を示しているが、その中に込められた精神的充実ぶりも超一級。

後期作品は、ズスケの透明で柔軟性に満ちた音楽性がアンサンブル全体に行き渡り、心の奥から滲み出てくるような歌を、決して力まずに豊かに引き出しており、繊細な配慮の行き届いた緩急やデュナーミクの変化も実に自然である。

従って、演奏内容、音の鮮度、録音の自然さなど色々な条件を総合的に考慮して、これはどんな名盤にもおよそひけをとらない素晴らしいレコーディングだと確信する。

そしてリーダーのズスケがライプツィヒ・ゲヴァントハウスに移った後も、じっくり時間をかけてシリーズを完遂した制作態度にも、この全集の盤石の重みがある。

このベートーヴェンの全集完成をもって解散したこのメンバーによる品格高い音楽性が余すところなく記録されているのである。

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classicalmusic at 23:33コメント(2)ベートーヴェン  

コメント一覧

1. Posted by 小島晶二   2022年04月09日 10:30
5 このいぶし銀の職人たちのベートーヴェンに光を当てていただき,極めて欣快です。兎に角彼らの堅固なアンサンブルはベートーヴェンでこの上なく発揮されています。古くはブッシュ,バリリ,ブダペスト,最近ではジュリアード,アルバンベルク,エマーソン,ゲヴァントハウス,タカーチ等の演奏がもてはやされていますが,このズスケSQの演奏は忘れられません。ズスケは今年88歳で顕在,ふたりの子供たちもゲヴァントハウス管で活躍しています。
2. Posted by 和田   2022年04月09日 10:38
ありがとうございます。ハイドンの『十字架上のキリストの最後の7つの言葉』は作曲者をして「この曲が生涯で最も大きな成功を収めた自作のひとつである」といわしめた名作ですが、その弦楽四重奏版による最高の名演奏こそズスケが加わった新編成のメンバーによるゲヴァントハウスSQの初のレコードです。この曲はオラトリオとして書かれただけに、弦の動きは弦楽四重奏曲風でなく弦楽合奏風。つまりきめの細かい動き、軽快な素早い動きといったものはありません。ドイツ古典、ロマン派に優れた演奏を聴かせるゲヴァントハウス管弦楽団を母体とするこのカルテットは、ここでも伝統に基づいた穏健な解釈と地味ではありますが落ち着いた運びで、じっくりとこの作品を再現しながら、熱のこもった演奏が展開されます。ただ熱気だけで押しきったものではなく、いかにもゲヴァントハウス管弦楽団のがっちりとしたまとまりを思わせるような整然としたアンサンブルの中で、表現への意欲を積極的にみせています。こうした意欲があるだけに、全体がロマン的な傾向をおびてくるのも当然のことですが、それでいて、そこに作品に適した様式と節度があるために、古典的な格調が維持されています。オラトリオ版ではなかなかこれほどの劇的求心力の強い演奏は生まれなかったでしょう。

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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