2017年07月20日
ギレリスのライヴ第2集、スラヴ作品集
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エミール・ギレリスの3種類のライヴからスラヴ系の作曲家の作品3曲を収録したCDで、選曲は入門者向きとは言えない、むしろ玄人受けするプログラムだが、彼が手中に収めていた十八番のレパートリーであることに間違いはない。
中でもプロコフィエフのピアノ・ソナタ第8番変ロ長調は1944年にギレリス自身が初演を飾った曲でもあり、思い入れだけではない綿密な構成と独自の解釈が聴きどころだ。
この作品は3曲の『戦争ソナタ』の中でも思索の沈潜をイメージさせるので他の2曲とは明確なコントラストをなしているが、作曲家によって起伏の多い細かい指示が書き込まれていて、その発展のさせ方にギレリスらしい周到さがある。
第2楽章アンダンテ・ソニャンドは殆んど古典派のメヌエットを夢想させるし、第3楽章のトッカータ風コーダに凝縮されていく持続性は他の追随を許さないオリジナリティーが感じられ、30分を越える大曲を効果的に締めくくっている。
ちなみにこの曲の初演1年前にリヒテルがソナタ第7番の初演を果たしているので、彼らが如何に同時代の音楽の推進者であったかが理解できる。
ショスタコーヴィチはピアノ・ソナタを2曲しか残しておらず、どちらもリクエストの低い作品であるにも拘らず、作風は非常に巧妙な作曲技法が使われた高度な音楽性が潜んでいて、それは彼の『24の前奏曲とフーガ』に通じるものがある。
終楽章のパッサカリア風ヴァリエーションに聴かれるように、ギレリスは冷静な分析でこうした知的な面白さを明らかにしている。
一方スクリャービンのソナタ第3番嬰へ短調は、この作曲家初期の作品特有の後期ロマン派の残照を引きずるような、喘ぐばかりのカンタービレと複雑な対位法がギレリスの豪快なピアニズムで鮮やかに描かれていて、神秘的な作風に移行する前の若き日のスクリャービンの情熱の迸りを伝えている。
3曲ともステレオ録音だが、皮肉にも一番新しい1984年1月8日のサンクト・ペテルブルクでのスクリャービンの音源がやや劣っている。
音響の拡がりは最も良好で鮮明だが高音が金属的になり、多少耳障りなのが惜しまれる。
プロコフィエフは1974年7月6日のモスクワ・ライヴ、ショスタコーヴィチが1965年1月8日ニューヨーク・カーネギー・ホールでのそれぞれライヴ録音で、この2曲に関しては時代相応の比較的良好な音質が保たれている。
このシリーズでのギレリスのライヴ・リサイタル盤は2枚目になるが、グラモフォンへのセッション録音では聴けない、マイナーでありながら興味深いレパートリーの選曲が魅力だ。
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