2017年11月13日
円熟期のツィマーマン、シューベルト最後のソナタ2曲
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ポーランド生まれのピアニスト、クリスティアン・ツィマーマンは今年60歳の大家として相応しい円熟期を迎えている。
今回ニュー・リリースされたアルバムのプログラムはシューベルト最晩年の2曲のピアノ・ソナタというのも象徴的だ。
作曲家が死の2ヵ月ほど前に作曲した3曲のソナタはことさら華やかな演奏効果もないので、テクニックだけで弾ける作品ではない。
またそれぞれが長大な曲で、野心などとは無縁の天上的な清澄な美しさがあると同時に、緩徐楽章には沈潜した逃れようのない諦観が潜んでいる。
それゆえ演奏家としての成熟した哲学や主張がなければ、走馬燈のように続く楽想がともすれば散漫な印象を与えかねないが、ツィマーマンの作品の本質を捉えた骨太でシンプルだがロマンティックできめ細かな精彩に富んだ解釈には曲を飽きさせない実力と説得力が示されている。
第21番変ロ長調のソナタを寂寥感と慟哭で最もドラマティックに表現したのはリヒテルだったが、ツィマーマンのそれはシューベルトの素朴な人柄に寄り添った真摯な演奏と言うべきだろうか。
2016年に新潟県柏崎市文化会館アルフォーレでセッション録音されたもので、音響学にも一家言持つツィマーマンらしくピアノのサウンドとその広がりを明瞭に捉えた音質も秀逸。
デジパックに挿入されたライナー・ノーツにはロンドンのクラシック音楽ライター、ジェシカ・デュシェンのインタビューに応える形でツィマーマンのシューベルトのソナタについての所感や使用楽器、また録音会場となった柏崎市のアルフォーレの音響についても語っている。
ツィマーマンの演奏を最後に聴いたのは3年前になる。
ドレスデンのゼンパーオーパーでのコンサートの一晩だったが、ブロムシュテット指揮、シュターツカペレ・ドレスデンとの協演で、彼が弾いた曲目はブラームスのピアノ協奏曲第1番のみだったが、ブロムシュテットの繊細なアプローチによって統率された渋めの音色のオーケストラに支えられた、彼の悠揚迫らぬ堂々たる表現と恰幅の良いピアニズムに感心した記憶がある。
今回のシューベルトの2曲のソナタは彼の久々のソロ・アルバムで、決して派手な選曲ではないが期待したとおりの充実感がある。
ウィーンにはシューベルトが1828年に31歳でその生涯を閉じた兄の家が記念館として遺されている。
そこに変ロ長調のソナタの自筆譜のコピーが展示してあるが、楽譜には少しの乱れもなく、ひとつひとつの音符が淡々と几帳面に書き込まれているのは感動的だ。
しかしその筆致から晩年のシューベルトの恐ろしいほどの寂寥感が伝わってきたことも記憶に新しい。
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