2017年11月17日
来たるべき円熟期を期待させるキーシンのニュー・アルバム
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久しくソロの新譜をリリースしていなかったエフゲニー・キーシンが2006年から2016年に亘るインターナショナルなコンサートのライヴ録音からベートーヴェンの作品を纏めたダブル・アルバム。
2枚組のCDに自身の選曲によるソナタ5曲とヴァリエーション1曲の都合6曲が収録されている。
潔癖とも言える正確でキレの良いタッチや和声の濁りを避けたペダルの使い方は以前と変わらないが、ベートーヴェンのレパートリーのみを選んだところに近年のキーシンの音楽的成長と将来に向けての彼自身の心境が示されているように思える。
ベートーヴェンはひとかどの演奏家であれば生涯をかけて取り組むべき作曲家であり、彼のピアノ・ソナタは名人芸の披露に留まらず、演奏者の人間的な成熟度が否応なく反映される。
例えば第32番の演奏でキーシンはベートーヴェン晩年の音楽的深遠な表現にはまだ期待を残すとしても、そこに敢えて挑戦しているのが現在の彼の姿ではないだろうか。
これらのライヴは6ヵ国に及ぶ演奏会からそれぞれ1曲ずつ収録してあり、ライヴに強いキーシンの力量を示すと同時に、少年時代から常に聴衆の中で育った彼が身につけたシンパシーが感じられ、実際どの演奏でも拍手喝采を浴びている。
尚音質は悪くないが、ライヴのためか全体的なボリューム・レベルがやや低い。
音楽産業界も残酷なもので、スター・プレイヤーの卵を発見するとその音楽家を育て上げるのではなく、酷使して儲けるだけ儲けた後は次の新人探しに躍起になるのが常だ。
そうした演奏家は最も重要で、しかもレパートリーを増やすよりももっと時間のかかる自己研鑽の余地を与えられずに、多忙なコンサートや録音活動でその才能をとことん消耗し尽くされてしまうので、円熟期を迎えることがない。
もし彼らが過去の名声にすがって空蝉のような演奏を繰り返すならば、いよいよ聴衆からも見放されてしまう。
私達はそうした例にヴァン・クライバーンを思い出すことができるだろう。
神童としてデビューしたキーシンもその危機に陥りかねない時期にあった。
しかし現在46歳を迎えた彼は正念場に何とか踏み止まって、新境地を拓くべく努力を続けていることが理解できる。
大手メーカーでは先ず新人による売れ筋の曲目をレコーディングの対象にするので、彼がこれから次々に新録音を発表することは考えられない。
しかしこのベートーヴェン・アルバムは奇を衒わない彼らしい性格が表れた優れたサンプルだし、また評価されるべき才能を持つピアニストだと信じたい。
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