2017年12月22日
カレル・アンチェル、ウィーン交響楽団とのフィリップス音源3枚
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3枚のいずれを聴いても素晴らしい演奏だが、中でも注目すべきはドヴォルザークの『新世界』とスラヴ舞曲集、スメタナの『モルダウ』、更にはチャイコフスキーの交響曲第4番及び『ロメオとジュリエット』などは後世に残る名演に数えられるだろう。
2曲の交響曲では曲想を故意に誇張したりデフォームを決してしない正統的な解釈の中に描き出す音響が冴え渡っている。
『ロメオとジュリエット』ではアンチェルのオーケストラへの非凡な統率力が示されているし、『モルダウ』での中間部の清澄な美しさは喩えようがない。
一方ウィーン交響楽団もサヴァリッシュ、クリップスやジュリーニなどの指揮者に鍛えられただけあって、彼らの長所でもある巧みなカンタービレや洗練された趣味でアンチェルの要求に良く呼応している。
ナチスの強制収容所に収容された家族の中では唯一の生還者で、1968年には旧ソヴィエトのプラハへの軍事介入に抵抗してカナダに亡命するという波乱万丈の人生を余儀なくされたチェコの指揮者カレル・アンチェルが、全盛期にウィーン交響楽団を振ったフィリップス音源で、幸い鮮明なステレオ録音で遺されている。
1950年にチェコ・フィルの首席指揮者に就任して以来、アンチェルはスプラフォンにかなりのセッション録音を行っていて、その殆んどがCD化されているが、チェコを去ってからはその実力を充分に発揮する機会にはそれほど恵まれず、晩年はむしろ不遇な健康状態での活動の場を強いられてレコーディングも極端に少ない。
しかし常任指揮者に就任したトロント交響楽団とも170回に及ぶ定期演奏会で着実な評価を得ていただけに65歳での死はあまりにも早かったと言うべきだろう。
この3枚は彼が戦後ウィーンに客演した充実した時期の録音で、同じチェコ出身の指揮者でも前任者クーベリックに優るとも劣らない祖国愛と、不屈の闘志や音楽への情熱をこのアルバムからも充分に感じ取ることができる。
勿論彼の解釈は偏狭的なナショナリズムとは縁のない、常に公明正大で高邁な美学が音楽に反映されていて、もっと多くのクラシック・ファンに聴かれるべき大指揮者だと思う。
尚彼のキャリアについてはスプラフォンからのDVD『我が祖国、プラハの春1968』 に詳しい。
オーストラリア・エロクエンスからのリリースで、このレーベルは版権切れになったユニヴァーサル系の古い音源をリマスタリングして廉価盤で再発しているが、初CD化や廃盤の憂き目にあって入手困難だった掘り出し物もあり、興味深い企画が注目される。
ケースのロゴはデッカになっているが、アンチェルが1958年から翌59年にかけてフィリップスに入れた音質が極めて良好なステレオ録音で、それぞれ個別に販売されていたフォンタナ・レーベルの4枚のLPを纏めている。
切れの良い明瞭な音像と臨場感はフィリップス音源に共通する特徴だ。
アンチェルのウィーンへの客演はその後さまざまな事情から途絶えてしまったので曲数は多くはないが、彼の絶頂期のプロフィールを捉えた貴重なセッションとして価値のあるセットだ。
アンチェルのスプラフォン及びそれ以外の音源については本家の他にもヴェニアスから33枚のボックス・セットもでていて、そのうち2枚は当セットとだぶっている。
オーソドックスなジュエルケースがかさばるが廉価盤では多くは望めないだろう。
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