2018年01月07日
最もエレガントなモーツァルトの『後宮』、ステレオ音源のリイシュー
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トーマス・ビーチャム指揮、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団によるモーツァルトのジングシュピール『後宮からの誘拐』全曲盤。
音質の良さもさることながら、それぞれのシーンがビーチャム流に洗練され美しく縁取られたメルヘンチックな作品に仕上げられていて、かつて聴いたこのオペラの中でも最もリリカルで優雅な雰囲気を湛えている。
1955年5月のセッション録音で、ジャケットにはMONOの表示があるが何故か完璧なステレオ音源。
この時期EMIでは既にステレオ録音を試験的に開始していたが、ステレオLPの正規リリースはデッカやその他のメーカーに遅れて1958年からになり、当セッションの録音経緯については不明である。
イタリア・ウラニア・レコーズからのリイシュー盤で、ジュエル・ケースに2枚のCDにトラック・リスト及び演奏者名が記載されたリーフレットが付いているが、以前併録されていたレオポルド・シモノーのモーツァルト・アリア集は割愛されている。
この作品はイタリア式のレチタティーヴォではなく、音楽の付かないセリフで劇が進行するジングシュピールの様式を採っているのでセッションでは通常セリフ部分は演劇役者が担当する。
この録音ではコンスタンツェにヒルデ・フォルク、ベルモンテにマンフレート・シュミット、オスミンがフリッツ・オッパー、太守セリムのハンスゲオルク・ラウベンタールが流暢なドイツ語で本格的な会話を聞かせてくれる。
しかしこのオペラにちりばめられた数多くのアリアではそれぞれの歌手の絶品とも言えるほどに磨き上げられた歌唱が聴きどころだ。
ビーチャムは主役の2人にソプラノのロイス・マーシャルとテノールのレオポルド・シモノーを起用することによってこの作品の性格を決定付けている。
どちらもカナダ出身のオペラ歌手だがリリカルな美声というだけでなく、クリアーな声質を端正な歌い回しで表現した典型的なモーツァルトの美学を愉しませてくれる。
マーシャルのコロラトゥーラは低音から超高音までを伸びやかに進展させて、超絶技巧のアリア「あらゆる苦しみが」でも余裕のある歌唱を披露している。
ベルモンテを歌うシモノーの様式に則った品の良い表現もモーツァルト歌いの面目躍如だ。
一方オスミン役のゴットロープ・フリックはあくの強い性格役者としてのバスを得意としていた。
第3幕「ああ、勝利だ」での低音Dはモーツァルトがオペラ・アリアで書いた最も低い音だが、彼はビーチャムのユーモアを良く解して、ぶっきらぼうだが快活かつ滑稽に歌い切っている。
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