2018年02月01日
アンナ・モッフォ、美貌と美声の幸福な記録
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アンナ・モッフォ没後10周年を記念して彼女の全盛期のRCA録音を集めた12枚のバジェット・ボックスで、一世を風靡した美人オペラ歌手としてのモッフォの最も華やかなりし頃の記録として興味深いセットではある。
ここには1960年から74年までに録音された総てのリサイタル・アルバムと彼女が参加したオペラの全曲盤からのピックアップ・シーンが収録されている。
この12枚組ボックスセットには、二重唱も含む全てのソロ・アルバムのほか、オペラ全曲盤からのアリアがコンパイルされており、彼女の名唱のすべてが集められている。
現代音楽の旗手としても知られる名指揮者、ルネ・レイボヴィッツと共演した「マノンの肖像」、巨匠ストコフスキーとの共演になる「オーヴェルニュの歌」、フランスの名ピアニスト、ジャン・カザドシュとのドビュッシー歌曲集など、モッフォのディスコグラフィの中でも際立った個性を放つ名演が一挙に蘇っている。
オペラに関しては全曲盤をそのまま収録しなかったのはむしろ賢明な選択だったと言える。
イタリア系だったこともあってイタリア・オペラを中心とする48のロールを歌った他に、その美貌を買われて女優として映画やテレビにも八面六臂の活躍を続けた異色のプリマドンナだった。
しかしモッフォのこうしたレパートリーはディ・ステファノと協演したマスネの『マノン』(CD5に抜粋を収録)以外は是が非でも聴きたいというほどの名演とは言えないからで、彼女はポスト・カラス、テバルディの時代に生きた1人の幸運なソプラノに過ぎないと言っても過言ではないだろう。
オペラ歌手の生命は何と言っても声の魅力とその表現力にあって、歌い手の容姿とか舞台での演技力などは往々にして二の次に評価されるのが一般的だ。
勿論プリマドンナが役柄に相応しいスタイルと美貌に恵まれていることに越したことはないし、相手役のテノールも釣り合いのとれた美男子であれば理想的だが、オペラの世界ではしばしばこの期待は裏切られる。
しかし結核を病む瀕死のヒロインが太り過ぎたソプラノであっても、歌唱力で他の矛盾する要素を中和して感動的な舞台を創り上げることも可能だ。
それが視覚を度外視できるオペラの持つ特異性とも言えるだろう。
美声と美形を両立させることができた数少ない例外がアンナ・モッフォだった。
ただし世の中はそう甘くないもので、同世代のソプラノでは、コロラトゥーラにレナータ・スコットが、リリコではミレッラ・フレーニが表現力でもテクニックでも格段に優っていたのは明らかで、彼女達と比較するとモッフォの歌唱がやや大味でスケール感に乏しく聞こえてしまうのも事実だ。
また彼女がその美声を保てたのは40代前半までで、喉の酷使のためかその後の声の衰えは急激に加速化して残念ながら歌手としての円熟期を迎えることができなかった。
ミドル・プライス盤なのでオリジナル・デザインのジャケット写真付収録曲目とデータ及びモッフォのキャリアを英、独、仏語で掲載した43ページほどのライナー・ノーツが付いている。
オペラ歌手専門評論家ユルゲン・ケスティングによる書き下ろしライナーノーツと、詳細な録音データを掲載したオールカラー別冊解説書付き(歌詞対訳は付いていない)。
尚初CD化の音源は、24bit/96kHzにてオリジナル・アナログ・マスターよりリミックスおよびリマスターされての復刻。
各ディスクはオリジナルLPのジャケット・デザインによる紙ジャケットに封入され、クラムシェル・ボックス(縦 3.2 cm x 横12.7 cm x 高さ 12.7 cm)に収納してある。
プリマドンナ時代の彼女を偲ばせる幾つかのスナップ写真は確かにスターのブロマイドに相応しいものだ。
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