2018年02月28日
アンチェルの貴重な客演、『アスラエル交響曲』のステレオ音源
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1967年にカレル・アンチェルがバーデン=バーデン南西ドイツ放送交響楽団に客演した放送用音源2曲を収録している。
曲目はヨセフ・スーク(1874-1935)のアスラエル交響曲Op.27及びイシャ・クレイチーの管弦楽のためのセレナータで、どちらもアンチェルが手中に収めたチェコの作曲家の作品だが、当時の南西ドイツ放送響の恐るべき実力と録音状態の良さに驚かされる。
オーケストラの非常に良く練り上げられた合奏だけでなく、ヴァイオリンを始めとするソロ・パートを演奏するメンバー達のレベルの高さも示されている。
放送用だがセッションと全く変わらない良質なステレオ音源で、アンチェル亡命直前のヨーロッパでの客演としても貴重な1枚だ。
その後彼がクリーヴランドと共演した1971年のライヴ盤も存在するが、音質に関してはこちらが俄然優位に立っている。
アスラエルは死者の霊を導く天使だが、この名称は当初からの命名ではなく、スークは師ドヴォルザークの追悼のために作曲を開始したが、第3楽章まで進んだ時にドヴォルザークの娘でスークの妻だったオティリエの死に見舞われ、第4楽章から作曲への構想が変化したらしい。
それ故第4及び第5楽章は第2部となっている。
また第1楽章には彼の前作『ラドゥースとマフレーナ』から死のモチーフが再利用されていることから、強制収容所で家族を殺され、死と隣り合わせの体験をしたアンチェル自身の心情をオーバーラップさせがちだが、ことさら標題にとらわれて聴く必要はないだろう。
むしろスークの巧妙なオーケストレーションや独特の壮麗なハーモニーを彼らがどのように表現しているかが鑑賞のポイントになると思う。
ちなみにスークはドヴォルザークの弟子だが、チェコの民族主義的なエレメントの使用は皆無に等しい。
ノヴァークの弟子、イシャ・クレイチー(1904-1968)はボヘミアン・ネオクラシシズムに属する作曲家で、ヤナーチェクのようにチェコに根付いたテーマを採り入れることもなければ新ウィーン楽派のような革新的な理論の信望者でもなかったが、マルティヌーと共にチェコの交響曲作家の系譜に名を連ねるユニークな作曲家だった。
ここに収録されたセレナータはモーツァルトのセレナーデにも一脈通じる快活さと諧謔性に富んでいて、また第2楽章アンダンテではアンチェルの弦楽合奏を屈託なく歌わせた軽快なカンタービレが美しい。
スークの神秘性とクレイチーの新時代のプラハの初夏の夜をイメージさせる曲想が好対照をなしたカップリングも面白い。
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