2018年03月16日
マタチッチ、過渡的な解釈のブルックナー第5番
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1970年にプラハで録音されたこの音源は、ロヴロ・フォン・マタチッチによって力強く彫琢された表現とチェコ・フィルハーモニー管弦楽団が底力をみせた名演として既に高い評価を受けていたので、今回UHQCDとしてリイシューされたことを評価したい。
スプラフォン原盤の音質は極めて良好だが、15年前のCDに比べると一皮剥けたような印象がある。
金管楽器のアンサンブルの響きにも潤いと艶が出ているし、チェコ・フィル特有の弦楽の瑞々しさも一際冴えて感じられる。
これまでに行われたレギュラー・フォーマットでのさまざまなCDの音質改善の試み、例えばSHM-CDやHQCD或いはルビジウム・カッティングなどの中では、XRCDとこのUHQCDが最も際立った変化が感知されるリニューアルのシステムである。
勿論1ランク上のSACDと同様で原音自体の質やその保存状態が悪ければ音質改善にも多くは望めないので、マスターの状態に基く選曲にも注意が払われていると思われる。
ハイレゾ時代を迎えた現在、通常のCDでもリマスタリングとマテリアルの改革で、未だ音質改善の余地が残されているということだろう。
リーズナブルな価格でこうした名演を良好な音質で鑑賞できることはメディアを選ぶ際の有力な選択肢と言える。
ブルックナーの交響曲第5番は対位法への回帰とその試みが特徴的で、彼の教会オルガニストとしてのキャリアを反映している。
第4楽章に置かれたフーガはさながらベートーヴェンの大フーガ変ロ長調のように展開するが、後半でマタチッチはチェコ・フィルの練達のアンサンブルを駆使して、音楽の流れを全く遮ることなく弦楽部に対するふたつのブラス・セクションをそそり立つ彫刻のように立体的に響かせている。
問題があるとすれば、終楽章でマタチッチはシャルクが削除、加筆訂正した版を採用していることで、その後のよりシンプルなオーケストレーション版で演奏することが一般的な傾向にある現在では、クライマックスで響き渡るシンバルやトライアングルのトレモロがあざとく聞こえてしまう。
ブルックナーの自己のスコアへの意思が決定的に示されていない以上、当時としては充分に通用した過渡的な解釈のひとつだろうが、マタチッチ自身晩年のRAIミラノとの演奏ではハース版に準じた演奏に戻っている。
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