2018年04月07日

指揮者道を歩み続けてきたアバドが晩年に到達した、感動の質を問う未来のマーラー像


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アバドは1970年代後半から、ウィーン・フィルやシカゴ響とマーラーに取り組み、ベルリン・フィルの首席指揮者となってからは、同オーケストラもまじえて録音を行ない、1995年にはそれらをまとめてアバドとしては初めてのマーラー交響曲全集を完成した。

この中で突出した出来を示していたのはやはりベルリン・フィルとの演奏(第1、第5、第8番)であっただけに、同楽団のみの全集の完成が切に望まれた。

その後、第3、4、6、7、9番についてはベルリン・フィルとのライヴ盤がリリースされ、それらにルツェルン祝祭管との第2番が加わってアバドの新全集が完結することになった。

作品が持つ世界に過度にのめり込むことなく、スコアをありのままに表現するアバドのアプローチは不変で、しかも、音楽が持つエネルギーはいささかも減じることはなく、マーラーの演奏史に新たな1ページを刻んだ全集と言える。

ワルターらの第一世代、バーンスタインらの第二世代に次ぐ、マーラーが広く国際化された時代である第三世代の名演奏としてマーラー演奏史に残る金字塔だ。

アバドは、マーラーの音楽の各部分を緻密に克明に再現し、歌が中断し分断されるマーラーの音楽の構造が抜群の音楽性をともなって見通しよく示される。

こうした点に、部分をつないで歌をわかりやすく全うしようとする前世代のマーラー演奏とは異なるアバドの特質が聴き取れるが、さらにアバドの場合、個々に分断されて自立し、並列する部分をひとつひとつの歌の可能性を追求して、その微細なパッセージを可能とあらば気合いを込めて歌い込む。

バーンスタインに代表される感情を表だてた演奏とはまた異なる魅力があり、アバドがスコアに率直に対峙した結果をそのまま音化したような演奏が非常に新鮮だ。

鋭いリズムとしなやかなカンタービレに鋭敏に反応するベルリン・フィルの筋肉質な響きも素晴らしく、ストイックとも言える姿勢を貫いた演奏は強い説得力を持っている。

アバドにはベートーヴェンやシューベルトの全集もあるが、何よりもマーラーの交響曲で彼の美学がいちばん貫徹しやすかったのだろう。

彼のそれの基本はさまざまな色合いの縦糸と横糸の精妙な織りなしにある。

絹のような艶っぽさと光沢感、手ざわりのなめらかさなど、どこをとっても繊細で緻密、スケール感にも欠けず、コラージュ風の構成のマーラーの交響曲にはぴったり。

クールに見通す強靭な構成力と過不足のない知的な表現力がバランスよく保たれた、まったくモダンなマーラーとなっており、むろんベルリン・フィルの信じられないくらいのクォリティの高さも魅力のひとつだ。

マーラーの交響曲から連想されるロマン的な情感を求めると物足りなさをおぼえるだろうが、新ウィーン楽派の先駆者だったことを強く印象づけるし、辛口ではあるが前向きの作曲家だったことがわかる演奏でもある。

そしてここで聴けるマーラーは確かに21世紀を象徴する意味を持つ演奏としてその姿を顕したと言ってよいだろう。

そこには若き日から機会あるごとにこれらの交響曲を採り上げてきたアバドの熟成の歩みが凝縮されると同時に、演奏家がまるで1人の無垢な聴き手となって音楽に奉仕する、そんな新次元の演奏を作り出したように思われてならない。

演奏家が聴き手になってしまったのでは演奏は成立しない、それは百も承知だが、そうではなく、感動的作品を前にしたときの想いには聴き手も演奏家も区別はないということである。

つまり演奏家も感動する原点に立ち戻って作品の最良の再現に努める、そんな演奏なのであり、アバドのマーラーの魅力と特質と現代性はここにある。

「19世紀は作曲家の時代」「20世紀は名演奏家の時代」と仮に考えると、「21世紀は聴き手の時代」ということになろうか。

だがそれは聴き手が主役になるといった意味ではなく、音楽家も含めて、聴き手が本来持つべき作品への無垢な姿勢と謙虚さとを持ちながら作品に立ち向かう時代ということではないか。

アバドのマーラー新全集が与える感動は、演奏家もまた聴き手的精神を持つべき時代が来つつあることを予感させる。

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classicalmusic at 00:33コメント(0)マーラー | アバド 

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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