2018年04月11日
骨太なロマンティシズム、リヒテルのシューマン
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リヒテルの演奏の凄さを示す1枚で、彼の幅広い芸風を示し、楽しませてくれる点でまことに興味が尽きない。
シューマンの作品は多分に文学的な要素を持っていると言われるが、リヒテルのシューマンは中世の騎士道物語を語っているような、骨太で豪快なロマンティシズムが感じられる。
彼はシューマンの音楽から感傷を引き出そうとはせずに、あくまでも楽想の本筋を正々堂々と追った演奏で、それがピアニストの王道と言われる所以なのかも知れない。
彼はまたピアノの音色にきわめて注意深い演奏家だった。
それは彼自身が語っているようにモスクワ音楽院時代の師匠ネイガウスから受け継いだ奏法に違いない。
しかし一方で彼は音色づくりに拘泥して音楽そのものが脆弱になることも完璧に避けている。
こうした音楽性とテクニックとの高度なバランスと調和が求められるシューマンのピアノ曲は当然リヒテルのレパートリーの重要な中核をなしていて、このCDでも彼の円熟期の卓越した表現を鑑賞できる。
ただここでは、感情の洗練された表出よりも、情熱の噴出の方がより重視されている。
『交響的練習曲』は12曲からなる変奏に、遺作の5曲の変奏を加えたもので、第5練習曲の後に、その変奏を挿入している。
大家ならではの力強く堂々とした音楽づくりに惹かれる演奏で、きわめてロマンティックな味を生かし、情熱的に表現しているのが特徴だ。
その強靭なタッチとスケールの大きさは傑出しており、ことに最終変奏の第12練習曲は、すこぶるダイナミックに弾きあげている。
うねりの大きい動感に溢れた演奏で、芯のしっかりとした、コクのある、いかにもシューマンらしい音づくりも魅力だ。
『幻想小曲集』からの2曲はリヒテルの厳しさと作曲者のファンタジーがまじり合い独特の味わいを醸し出している。
最後に置かれた「夢のもつれ」ではヴィルトゥオーゾとしての彼の面目躍如の超絶技巧を披露して聴衆を沸かせている。
米ミュージカル・コンセプツ社がマンチェスターのアルト・レーベルから廉価盤としてリリースしているリヒテルのCDシリーズは、英オリンピアからのライセンス・リイシューになるが、音質の優れているものばかりをセレクトしているのが良心的だ。
このCDは1971年のアリオラ=オイロディスクへの録音と79年のNHKホール・ライヴのふたつの音源からカップリングされているが、どちらも良好な音質と臨場感を持っている。
最後の『幻想小曲集』からの2曲のみが東京ライヴで、そのほかの曲についてはライナー・ノーツに録音場所は明記されていない。
リヒテルのディスコグラフィーを調べると、この音源は71年にザルツブルクのクレスハイム城で行われたセッションということで、確かに潤沢なピアノの余韻は彼が同地で録音したシューベルトやバッハに共通している。
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