2018年06月10日
アンナー・ビルスマこだわりの室内楽作品集
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ビルスマの室内楽第2集12枚のセットで、ピリオド楽器によるアンサンブルに興味のある方には聴き逃せない充実した内容を誇っている。
一曲目のベートーヴェンの『チェロ・ソナタ第3番イ長調』でビルスマは変化に富んだきめ細かいアーティキュレーションで曲想を丹念に仕上げている。
この作品はその雄大な構想から、時として必要以上に重厚でしかつめらしい表現になりやすいが、彼の曲作りはごく自然体で飄々としている。
しかしその演奏には細部まで明確にしなければ気が済まない律儀で隙のない音楽設計と表現力の幅広さが感じられ、しかも全体の流れを止めることのない悠揚とした大きなスケールでまとめあげている。
その意味で後に続くチェロ・ソナタ全曲を鑑賞することによって、彼の意図するベートーヴェン像がより明瞭になってくることは疑いない。
同じくベートーヴェンのピアノ三重奏曲『大公』及び『幽霊』も典型的な内容重視の演奏で、表面的なアピールを嫌った、しかし思い切ったダイナミズムの中に音楽性を掘り下げていく奥深さを持っている。
1727年製のストラディヴァリウスを弾くヴァイオリニスト、ヴェーラ・ベスは、その美しい音色と阿吽の呼吸でアンサンブルを手堅いものにしているが、ここではまたフォルテピアノを演奏するファン・インマゼールの感性豊かなサポートが特筆される。
現代のピアノに比べれば地味な音色には違いないが、それだけに抑揚を利かせた巧みな奏法が弦楽に良く調和して、音楽的に釣り合いが取れているだけでなく、ソロとしてのピアノの役割にも充分に応えている。
シューベルトのピアノ五重奏曲『鱒』ではアンサンブル、ラルキブデッリのそれぞれ由緒ある楽器とピリオド奏法を用いた軽妙な演奏が、かえってこの作品をリフレッシュさせていて古臭さが全く感じられない。
快速のテンポで進む弦楽とファン・インマゼールの軽快なフォルテピアノが相俟ってシューベルト特有の清々しさと穏やかな色彩感を醸し出して、ピリオド楽器による室内楽としての説得力にも欠けていない。
また『アルぺジョーネ・ソナタ』でビルスマは1700年製のチェロ・ピッコロを失われてしまった楽器アルぺジョーネに替えて、そのインティメイトな響きを辿っている。
高音ではやや線の細い音色になるが、この楽器の機動性を駆使した自在な表現は如何にも彼らしい。
後半のブラームスではラルキブデッリの練り上げられたアンサンブルの技が冴えている。そこには決して古楽奏者と古楽器を寄せ集めただけではない、彼らの確固としたポリシーとロマン派の音楽に対しても高い適応性と、それに見合う高度なテクニックが示されている。
弦楽六重奏の音色は渋めだが、民謡風の素朴なカンタービレと対位法の対比が寓話的な作品の魅力を伝える優れた演奏だ。
尚CD12にはライナー・ノーツによると最後にヴェーバーの『フルート三重奏曲ト短調』が組み込まれている筈だが、実際には抜けている。
選曲の候補には上がったが時間的に収容できなかったのだろう。このCDの演奏時間トータルは83,38分と記載されているがそれ自体不自然で、おそらくミスが見落とされて印刷されたと思われる。
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