2018年07月16日
天性の閃き、デ・ロス・アンへレス名演集SACD盤
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往年の名ソプラノ、ヴィクトリア・デ・ロス・アンへレスをクリュイタンス、ミュンシュ及びプレートルがサポートしたフランスの作曲家の4つの作品を収録したアルバムで、昨年プラガ・ディジタルスからハイブリッドSACD盤としてリリースされた。
彼女の声には特有の陰翳があってそれ自体魅力的な美声だが、また天性の閃きを感じさせる驚くべき表現力がこれらの作品の核心を捉えている。
ドビュッシーの『選ばれし乙女』では清楚で可憐な歌唱が超現実的な雰囲気の中に表現されていて、それは彼女の遺した名唱メリザンドに共通している。
一方フォーレの『レクイエム』ではおよそ宗教曲には縁がないと思われる色香までも漂わせている。
筆者はこのレクイエムをこれだけ甘美に歌った歌手を知らない。
そこには死という避けて通れない宿命が、恐怖を抱かせる現象ではなくあたかも母親の胸の中に再び抱かれるような安らぎとして歌われている。
父を亡くしたフォーレ自身にもそうした思いがあったのだろう。
クリュイタンスの指揮はこの作品のもう一人のソロ、フィッシャー=ディースカウと共に極めて精緻なオーケストレーションの再現で天上的な、しかし人間性に溢れた温もりの中にフォーレの世界を描き出している。
音質は時代相応と言ったところだが、リマスタリングの効果で解像度が増して従来盤より臨場感を高めている。
彼女のエスプリと情熱の発露になっているのがラヴェルの2曲で、カンタービレとレチタティーヴォ風の語り口調が絶妙な対比の中に置かれ、詩と音楽の自然で理想的な融合を感じさせる。
ここではまた背景を演出するプレートル、パリ音楽院の気の利いた軽妙洒脱なオーケストラが彼女の歌唱を一層引き立てている。
このディスクのミステリーが『シェエラザード』で、2曲目からクロード・モントゥーのオブリガート・フルートが加わるが、ここでは何故かモノラル音源が使われていてシルキーなモントゥーの音色も曇ってしまっているのが惜しまれるが、オリジナル音源は歴としたステレオ録音だ。
それに反して『5つのギリシャ民謡』は音質も格段に良くSACD化によって、紺碧の空と澄み切った海を髣髴とさせる彼女の屈託のない才気煥発な歌唱が冴え渡っている。
ジェラルド・ムーアが引退表明をしたコンサートの時、伴奏者としての立場から最も優れた歌手として呼んだのがシュヴァルツコップ、フィッシャー=ディースカウと彼女だった。
ムーアもそれだけ彼女の歌唱の高い芸術性を評価していたことになる。
他の二人がゲルマン系の作品の大御所だったのに対してデ・ロス・アンへレスは驚異的なレパートリーを誇っていて、その演奏活動はお国物のサルスエラやスペイン歌曲、イタリア、フランス・オペラからドイツ物まで全くボーダーラインを感じさせなかったし、またコンサートのアンコールではギターを持ち出して弾き歌いする気さくな性格も持っていた。
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