2018年08月25日
宇宙的スケールで描くグードのベートーヴェン:ピアノ・ソナタ全集
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リチャード・グード(1943年6月1日〜)はアメリカのピアニストで、ベートーヴェンと室内楽を得意としている。
ニューヨーク州イースト・ブロンクス出身で、カーティス音楽院でルドルフ・ゼルキンとミェチスワフ・ホルショフスキに師事。
第1回クララ・ハスキル国際コンクールに入賞し、エイヴリー・フィッシャー賞を受賞。
リチャード・ストルツマンと共演したブラームスのクラリネット・ソナタの録音では、グラミー賞を受賞している。
1983年、40歳のグードに初レコーディングの話がまとまったとき、彼が要求した曲はベートーヴェンの全ソナタ集であった。
それほど彼は胸の中にベートーヴェンを温めつづけて来たのだ。
この全集は、「ベートーヴェン演奏として理想的なピアニスト」「完璧さと独自の解釈・自己主張が均一的に散りばめられた唯一の演奏」と絶賛されたものだ。
そして1987年にニューヨークで行なわれたソナタ全曲演奏会によって一大センセーションを巻き起こしたグードの実力は全世界に知られたのである。
グードの演奏は決して華麗でもなければ、聴き手をうならせるような超絶的な技巧も披露していない。
その点では、彼は確かにスター的なコンサート・ピアニストの部類からはかけ離れている。
といってもグードは決して衒学的な難しい理屈をこねまわすタイプでもない。
これまでの感情的な奥深さを求めたものではなく、ベートーヴェンの純粋主義者と完璧主義者という中にエキサイティングさを感じさせる、当時としては珍しい解釈であったもので、彼の感情と感性の深さが、このセットに記録されている。
グードが弾くベートーヴェンのピアノ・ソナタは、コンサートでもディスクでも(グードはアメリカ出身ピアニストとして初めてベートーヴェンのソナタを全曲録音した)聴くたびに新しい発見がある。
そこには型にはまったマンネリ感が全くなく、音楽そのものと聴き手の間に自分自身を割り込ませようとする演奏家にありがちな尊大さがかけらも感じられない。
この"無私無欲"の才能は彼の師であるルドルフ・ゼルキンが体現していたのと同じものだ。
グードのピアノからは、まるで作曲家自身が鍵盤に向かい、たったいま頭に浮かんだばかりの楽想を表現しているかのように聴こえる。
峻厳たる造型の構築力にも秀でたものがあり、強靭な打鍵は地の底まで響かんばかりの圧巻の迫力がある。
スケールも雄大であり、その落ち着き払った威容には、風格さえ感じさせる。
他方、ピアノタッチは透明感溢れる美しさを誇っており、特に、各曲の緩徐楽章における抒情的なロマンティシズムの描出には抗し難い魅力を湛えている。
技量にも卓越したものがあるのだが、上手く弾いてやろうという小賢しさは薬にしたくも無く、1音1音に熱い情感がこもっており、技術偏重には決して陥っていない。
そして何よりグードの演奏が体験させてくれるのは途轍もなく巨大なスケールで屹立するベートーヴェン像である。
宇宙的なスケールで描くグードのベートーヴェンは、強く、深く、そして雄大に心を打つ。
実演に接した人なら、ホールの空間からさらに拡大されたような錯覚を引き起こし、それでいて音楽自体はまるで眼前で展開されているがごとき距離で息づいているといった形容を理解してもらえるはずだ。
さすがに録音となるとそこまでの再現は望めないかも知れないが、限りなく深く沈潜していく感覚を追体験することは可能だろうと思う。
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