2018年09月30日
スーク・トリオ全盛期のチャイコフスキー、アンサンブルの愉悦
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これは、チェコの名手ヨゼフ・スークが、ピアノのヤン・パネンカ、チェロのヨゼフ・フッフロとともに1976年に来日した時に録音されたもので、スーク・トリオにとって2度目の録音になる。
彼ら3人の充実ぶりが如実に示され、3つの楽器が伯仲した力量で、実に白熱したスケールの大きな表現をつくり出した名演奏である。
スーク・トリオの3人はいずれもプラハ出身で、それぞれがソリストとして活躍していた中でのピアノ・トリオ結成自体珍しく、しかも特別な機会のための臨時編成ではなく定期的なコンサートや録音で一世を風靡するほど質の高い演奏で評価されていた。
結成は1952年で、1980年代に入るとパネンカの指の不調やフッフロの役職の多忙さなどからトリオは解消されてしまうが、この録音が行われた頃には3人も円熟期に達して充実したアンサンブルを聴かせている。
チャイコフスキーの『偉大な芸術家の思い出のために』は、友人のピアニスト、ニコライ・ルビンシテインの追悼のために書かれた作品である。
それだけに曲中に彼を偲ぶような超絶技巧がピアノ・パートに託されていて、テクニック的にもかなりの技量が要求される難曲でもあり、このディスクでのパネンカの颯爽とした名人芸も聴きどころだ。
チャイコフスキーとルビンシテインの麗しい友情の記念碑であるこの曲への、深い共感に溢れた演奏は聴き手の胸に切々と迫る。
第1楽章の速めのテンポと洗練された音彩による歌の美しさ、急迫する呼吸の自然さ、第2楽章のそれぞれの変奏が実に真摯な表情を織りなしてゆくことなど、ただただ驚嘆のほかはない。
ここには、長いキャリアをもつこのトリオの充実ぶりが如実に示されていて、幾分速めのテンポで弾きあげた第1楽章の迫力のある演奏にはまず圧倒される。
なかでも深い共感をもって再現した第2楽章は抜群で、変奏主題の荘重な歌わせ方は特に素晴らしい。
第8変奏の堂々たるフーガのまとめ方や第9、第11変奏の哀切極まりない情感の表出も流石に見事だ。
変奏終曲とコーダの全精力を傾けた豪壮なクライマックスと感動に満ちた表現も、聴く者を揺り動かさずにはおかない。
また第2楽章での一連のヴァリエーションではチャイコフスキーが在りし日のルビンシテインとの友情を偲ぶような回想的な曲想が特徴で、第10変奏にマズルカが加えられているのもルビンシテインの母の故郷だったからだろう。
スーク・トリオは彼らのロマンティックな感性をほど良く抑制し、絶妙な合わせを堪能させてくれる。
フッフロのチェロも要所要所をきちんと押さえていて、練達の手腕を感じさせる。
1976年に東京で行われた初期のPCMディジタル録音で、音質はUHQCD化されたこともあって明瞭で臨場感にも不足しないが、当時テクノロジーの発展途上にあった録音機器の影響もあって、現在のディジタル録音に比較すると情報量がやや劣って聞こえるのは否めない。
その少し前の1972年青山でのスメタナ四重奏団による世界初のディジタル録音を手始めに、日本コロムビア(現在のDENON)は当初旧チェコスロヴァキアのスプラフォンとのコラボを緊密にして彼らとのシリーズ物を販売し始めた。
その後もさまざまな試行錯誤を経てLPやCDの音質を向上させていく一里塚としての録音でもあり、その意味でもエンジニア達の情熱を伝えたディスクだ。
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