2018年10月31日
ハンス・ホッター、歌曲の集大成
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ハンス・ホッターは主にバイロイト音楽祭でヴォータン、グルネマンツを歌ってワーグナー歌手としての地位を確立した。
またコンサート歌手としては、シューベルトを中心としたドイツ・リートの分野で第一人者としての高い評価を受けていた。
ホッターの深々とした重いバス・バリトンの声は、歌曲においてはある程度そのレパートリーが限られてしまうが、それでもこの6枚組のセットに彼ならではの極めつけの名演を聴くことができる。
シューベルトでは特に『冬の旅』と『白鳥の歌』がそれに当たる。
前者に関しては個人的に知る限りでは、少なくとも彼は5種類の全曲録音を遺している。
ここに収められているのは1954年の壮年期、第2回目のものでジェラルド・ムーアとの、後の枯淡の境地とは違った厳しくも暖かみのある絶妙な表現が聴き所だ。
欲を言えば他の曲で、例えば『楽に寄す』と『春に』は英テスタメントから出ている1957年の朗々たる名唱とは異なった、古い1949年の音源が選ばれているのが惜しまれる。
そのほかの歌曲ではレーヴェの『エドアルド』、『魔王』、『海を行くオーディン』そしてシューマンの『2人の擲弾兵』などは間違いなく絶品だし、素朴で諦観的なブラームスや機知に富んだヴォルフなど、その表現も多彩だ。
一方彼のワーグナー歌いとしての圧倒的なキャリアは、勿論このセットでは僅かにその片鱗を知るのみに留まっている。
最後の1枚に収録されたビルギット・ニルソンとのデュエットで『さまよえるオランダ人』及び『ワルキューレ』での獅子の咆哮さながらの力強い熱唱が1957年の良質のステレオ録音で聴けるのは幸いだ。
ホッターの偉大さは、彼の人間としてまた音楽家としての豊かさから生まれたものと思う。
その豊かさが深々とし胸部共鳴を伴った声と、真摯な歌いぶりを通して溢れ出るかのように伝わってくる。
決して雄弁ではないが、彼の歌を聴いていると限りない大きさと深い奥行きをしばしば感じる。
彼こそ真に巨匠の名に値する声楽家と思う。
尚このボックス・セットはEMIイコン・シリーズとして2009年3月にデジタル・リマスタリングされてのリリースだ。
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