2018年11月02日
大人の味わい、シェリングの壮年期に録音されたクライスラー名曲集
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ポーランド出身メキシコの名ヴァイオリン奏者ヘンリク・シェリングがリサイタルで取り上げた曲は、バロックから現代に及ぶ広範囲のレパートリーの中から選ばれているが、実際のプログラムの曲目を見るととりわけバッハ、モーツァルト、ベートーヴェンそしてブラームスが圧倒的な割合を占めている。
そしておそらく彼はアンコールに於いてでさえもクライスラーなど、いわゆる際物を演奏することは殆ど稀だっただろう。
しかしそのような古き良き時代への郷愁を込めた、ある種くだけた小品を彼は決して蔑視していたわけではない。
何故なら既にこれまでにこの手の曲ばかりを収めたCDがSP盤復刻も含めて都合3枚リリースされているからだ。
中でも最も音質に恵まれ、また典型的なシェリングのスタイルを鑑賞できるのが1963年録音の当CDだ。
クライスラーのヴァイオリン名曲集は、名だたる大ヴァイオリニストたちによる名盤が軒を連ねているが、このシェリング盤は、クライスラー自身による録音を除外すると、その中でも最も傑出した1枚と、筆者が以前から確信を抱いている名盤である。
彼のクライスラーは羽目を外さない律儀なところがあり、折り目正しく端正な語り口は、作品の輪郭をまやかしなく克明に描き出しているが、そこにふくよかな感情の起伏や上品な歌を滲ませている。
そこでは、すこぶる音楽的で作為性のない表現の中に、非常に自然で純度の高い作品像が彫琢されているのである。
聴衆に決して媚びることはないけれど曲の仕上げは極めて格調が高く、細かなニュアンスに富み独特のエレガンスとさりげないロマンティシズムが漂っている。
それがまたチャールズ・ライナーのチャーミングで気の利いたピアノ伴奏でアクセントがつけられているのが魅力だ。
録音はマーキュリー・リヴィング・プレゼンスの優れた高音質録音で、シェリング愛用の名器グァルネリ・デル・ジェズの素晴らしい音色と表現力を堪能できる。
クライスラーの自作自演盤は、本当にかけがえのない名演であるが、その音質の古さが返す返すも残念である。
それを思う時に筆者に救いをもたらしてくれるのは、いつもこの大人の味わいを感じさせるシェリング盤なのである。
ここに聴く気高くも温かい表現は、作品の幻想的な美しさをこれ以上なく誠実に描き出しており、いつまでも私たちを魅了し続けることであろう。
尚この録音は2007年にXRCD(4428836)としても再登場している。
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