2018年12月20日
歴史的邂逅、ポリーニによる第1回目のブラームス協奏曲集
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マウリツィオ・ポリーニ若き日のブラームスのピアノ協奏曲集で、第1番がカール・ベーム指揮ウィーン・フィルとの1979年の録音、第2番がクラウディオ・アバド指揮ウィーン・フィルとの1976年の録音になる。
国内盤では以上2曲のみの収録だったが、輸入盤には更にベーム指揮ウィーン・フィルの演奏でハイドンの主題による変奏曲と悲劇的序曲が収録されている。
ポリーニが協奏曲を集中的に録音していた時期の演奏であり、第1番で当時37歳の彼は老練なベームの指揮を得て、のびのびとしたソロを聴かせる。
透徹したタッチで弾き進めるポリーニは、冴えたテクニックを披露しながら、ブラームスのシンフォニックな協奏曲に対して明晰なアプローチを示す。
ニュアンスの与え方が細部まで丁寧であり、作品の持つロマンティックな叙情美を見事に浮かび上がらせたその演奏は、現在においても新鮮な魅力を放つ。
一方、ベームの端正にして気品を保った指揮は、オーケストラから情感豊かな表現を引き出すと共に、温かな眼差しをもって、ポリーニのピアノを着実に支えている。
ベームの指揮から生まれるウィーン・フィルの音色には練り上げられた滑らかさと落ち着いた光沢があって、それがこのピアノ協奏曲第1番の冒頭のような激しく高揚する緊張感を表現する時でも決して損なわれることなく、常に鷹揚で気品のある風格を保っている。
彼の指揮にはブラームスの音楽の内部から溢れ出す激情をことさら誇張せずに楽想自体から自然に生み出されるエネルギーをそのまま引き出している必然性が感じられる。
また常に自然体でありながら感情の機微を伝える術を知っていた数少ない指揮者の一人だった。
一方第2番はアバドの指揮に替わるが、彼はポリーニのとても相性の良いパートナーであり、第1番とは対照的にこの曲の持っている叙情性を最大限生かしたリリシズムに満ちた解釈が聴き所だ。
オーケストラのカンティレーナの美しさやナチュラルでしなやかな感情の起伏など、哲学的な深刻さよりもむしろ平明かつ流麗でしかも張りのあるダイナミックで視覚的な表現の選択はイタリア人指揮者ならではのものだ。
この頃のポリーニには、現在の彼にはもはや求めることのできない恐ろしく強靭な集中力と人間離れしたテクニックの冴えがあった。
そうした条件が見事に一体化したこの演奏は、瑞々しい歌と白熱した緊迫感に溢れる名演になっており、特に第1、第2楽章の輝かしい表現は、未だに新鮮で圧倒的なアピールを保ち続けている。
ポリーニの能力の並外れた点は曲全体を客観的に俯瞰することによってその構造を確実に把握し、聴く側に一切の曖昧さを排した一点の曇りも無い明瞭なイメージを伝えるところにある。
その為には細部の表情付けに拘泥することは避け、一種の冷徹さを持って演奏を推進していく。
良く言われる輝かしく彫りの深い表現というのは決して彼の明晰で精緻な打鍵のみを指しているのではなく、この奏法をあくまでも表現手段として用いた頭脳的な曲作りに彼の本領が発揮されている筈だ。
ポリーニの音楽には陰影に包まれた憂愁の美といったものは期待できないが、彼が伝統的なドイツのピアノ音楽を完全に手中に収めているのはこうした理由からだろう。
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