2018年12月12日
叡智と機知の結晶、フィッシャー=ディースカウのかけがえのない記録
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ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウはただ単に戦後を代表する名バリトン歌手というだけでなく、ドイツの楽壇の重鎮というべき偉大な存在であった。
彼のレパートリーは膨大で、また幸いその至芸の殆んどが録音を通じて鑑賞できるが、特にフーゴ・ヴォルフ歌曲集での感動はひとしおだ。
ヴォルフはテクストに選んだ詩を、恐ろしいほどの深い洞察力で読み取り、その言霊の抑揚ひとつひとつに人間の心理やさがを見出し、嬉々としてそれを楽譜に写し取っていった。
ピアノさえも伴奏の範疇を抜け出して歌詞と対等に語らせ、森羅万象を表すだけでなく心理描写にも心血が注がれている。
それは殆んど狂気と紙一重のところで行われた作業であるために、その再現には一通りでない表現力や機知と、それを裏付けるテクニックが要求される。
筆者は語り口の精緻さにおいて、フィッシャー=ディースカウを凌駕する歌手を知らない。
ヴォルフ歌唱録音の金字塔ともいえる不滅の名全集というだけでなく、フィッシャー=ディースカウが数多く遺した作曲家別の「歌曲全集」中、シューベルトとともに傑出しているのが、このヴォルフという定評が高い。
シューベルトに匹敵するほどのヴォルフの豊饒な歌の世界の全容を知らしめたのがフィッシャー=ディースカウの当意即妙で、自在闊達な歌唱であった。
この6枚組のセットでは彼とピアニスト、ダニエル・バレンボイムのコンビによる最良のヴォルフ歌曲集を堪能することができる。
特にフィッシャー=ディースカウと丁々発止のやり取りを聴かせているバレンボイムのピアノは秀逸だ。
1972年から74年にかけてのセッションで、音質は極めて良好。
尚EMIからは同様の歌曲集にフィッシャー=ディースカウ自身が指揮したヴォルフの管弦楽曲集を加えた7枚組セットもリリースされている。
そちらの方の歌曲は1952年から66年の録音になり、よりストレートな解釈が特徴で、声も若々しいが音質は時代相応でやや劣っている。
一方伴奏者はジェラルド・ムーアで、これも名伴奏の名に恥じないものだが、比較すると良し悪しはともかくとしてバレンボイムのピアノの方がより積極的に歌に介入していると言えるだろう。
フィッシャー=ディースカウ自身もこのグラモフォン盤では千変万化の感情の機微の表現、声の使い方のきめ細かさで熟練の境地に達している。
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