2018年12月24日
新鋭シェリングと巨匠ルービンシュタイン、曲想の彫りの深さ、ピアノの雄弁さ
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70代であったアルトゥール・ルービンシュタインが、同じくポーランド出身で40代のヘンリク・シェリングと組んだブラームスのヴァイオリン・ソナタ全集(1960年~1961年録音)は、リイシューを繰り返しているが、2008年にSHM-CD盤としてリニューアルされ、その後ブルー・スペック盤も登場している。
後者は聴いていないがSHM-CDに関して言えば従来盤に比較してよりクリアーな音質が再生される。
その変化は劇的ではないにしても、こうした古い音源には常に新規のリマスタリングとマテリアルの改善が望まれる。
2008年発売当時は2730円の定価が付いた限定盤で、既に製造は終了しているようだ。
シェリングを世界の檜舞台に引っ張り出したのはルービンシュタインその人だった。
1954年、ルービンシュタインはメキシコを演奏旅行するが、そのときメキシコに帰化して活動していたシェリングと出会った。
ふたりは音楽的に認め合えただけでなく、ともにポーランド出身で亡命生活を余儀なくされている者同士だった。
ルービンシュタインはアメリカにシェリングを紹介し、名刺代わりにRCAに一連の録音を行なったが、その中の最も大きな成果がこのブラームスのソナタ集である。
録音時、シェリングは42歳だったが、世間的にはまだ新鋭、ルービンシュタインは73歳に手が届く巨匠であった。
そんなふたりの共演が実現したのは、なんとしてもシェリングを世間に紹介しようとする強い意志がルービンシュタインにあったからに他ならない。
同じポーランド出身の才能に富む後輩に、大家は温かい気配りというこの上ないプレゼントをしたのである。
そんないきさつから、ここではルービンシュタイン主導の演奏が繰り広げられる。
端正な美音を誇るシェリングだが、この時期の彼は、巨匠を前にしてまだ多少かしこまっている印象を受ける。
シェリングのヴァイオリンは、とても誠実な性格、充分に咀嚼された美しい音で、各曲とも丁寧に歌い上げられていく。
虚飾めいたものは、どこにも入り込む余地はないが、ルービンシュタインのピアノが対照的に大らかで、効果を上げている。
さりながら演奏の全体は、滋味豊か、ほのぼのとしている。
シェリングの端正な音色と表現が、力感と味わいを兼ね備えた老巨匠のピアノと巧みにマッチしており、ブラームスの世界を潤い豊かに描き出すことに成功している。
ブラームスの3曲のヴァイオリン・ソナタのソロ・パートの書法は、いずれも飾り気がなく線の太い、それでいて感性豊かな深い味わいを民謡風に歌い上げるように書かれている。
こうした伝統的なドイツの音楽では、シェリングの常套手段でもある楽曲に正面切って対峙する正攻法の解釈と曲想の彫りの深さ、またそれに適った全く隙のないボウイングは最大の効果を発揮する。
この曲集でも随所に聞かれる、彼の豊かで流れるようなダブル・ストップが聴きどころのひとつで、ブラームスの厳格な楽曲の構成の中にもロマン派特有の溢れんばかりのカンタービレを披露している。
そこにルービンシュタインの、伴奏という言葉からはほど遠い、積極的で決然としたピアノの介入がシンフォニックな響きで奥行きを出している。
両者の声部のバランスは完璧に保たれているが、ピアノの雄弁さとスケールの大きさは圧倒的で、こうした表現は滅多に聴くことができない。
19世紀的なサロンの空気を知るルービンシュタインのロマンティックなピアノに乗って、シェリングがブラームスの旋律美と憂愁を端正に、かつ情熱的に歌い上げている。
そこには相手をサポートしながら協調し、自らも主張するアンサンブルの総ての要素が存在しているように思える。
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