2018年12月30日
天性の明るい歌声、プライの歌曲、アリア集
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ドイツ語圏ではヘルマン・プライと同世代のバリトン歌手にウィーン生まれのエバーハルト・ヴェヒターがいたが、やや年上のフィッシャー=ディースカウは同郷の出身だったために、2人は常に比較の対象になってしまった。
しかしプライの声はヴェヒターより明るく、フィッシャー=ディースカウのニュートラルでオールマイティな声質とは全く異なった明確なキャラクターを持っていた。
圧倒的な声の力、正確無比な歌の技、というのではなく、自然に溢れ出る歌がプライの身上なのだが、その前に独特の明るさを持った声質がプライの魅力だ。
そのために彼の歌にはドイツ人には珍しく天真爛漫なところがあり、また声の響き自体にバリトン特有の輝かしさと甘さが備わっていた。
どういうわけか、甘味を含んだバリトンの声は大変少なく、まさしくプライのものだった。
発声の技巧を凝らせて声の明暗の変化を聴かせることや、心理的な腹芸を必要とするヴォルフやマーラーよりも、むしろ平明で直裁的な表現が要求されるシューベルトや情熱的なシューマンを得意としたのも当然だろう。
この10枚のCDでも中心となっている歌曲集は『冬の旅』『詩人の恋』を始めとするシューベルト、シューマン、ブラームスそしてレーヴェなどの作品だが、肩肘張った芸術歌曲の硬さとは別の情感をはらみ、類のない魅力を発散している。
こうしたドイツ・リートに関してはフィッシャー=ディースカウほど精緻な歌唱ではなかったにしても、一途な青年の想いを吐露したり、飾らない人間くさい描写に優れていて、それが彼の魅力でもある親近感を感じさせている。
精密に歌う歌手ではないとしても、自然に歌が溢れ出てくるのだと、人に感じさせるだけの巧妙な歌手でもあるということだろう。
またプライの張りのある大らかな歌声と人懐っこい演技は、肩の張らないオペレッタやミュージカルなどのジャンルにも良く馴染んだために、彼の庶民的な人気は絶大だったと言えるだろう。
確かにこうした領域での才能に長けていた彼が、フィッシャー=ディースカウとは一線を画したレパートリーを開拓する結果になったことも頷ける。
精密で知性的な歌い方に対する本能的な歌い方、角張った芸術性に対するまろやかな歌謡性、野暮に対する洒脱、確かにこの対比にはプライの特質をはっきりさせるところがある。
このセットでもプライの柔軟なスタイルが良く表れているのが9枚目の『マイ・フェア・レディー』『キス・ミー・ケイト』や『アニーよ、銃を取れ』などのミュージカル・ナンバーと10枚目の『ジプシー男爵』に代表されるようなオペレッタの演目で、それらに彼の最も優れた歌唱を堪能できる。
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