2019年01月29日
ヘブラー、フォルテピアノによるクリスティアン・バッハ協奏曲全集
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イングリット・ヘブラーとエドゥアルト・メルクスの指揮するカペラ・アカデミカ・ウィーンによるヨハン・クリスティアン・バッハのピアノ協奏曲集。
録音活動でのヘブラーはモーツァルトの作品の演奏が大半を占めているが、この4枚には少年時代のモーツァルトと交流があり、彼の作品に大きな影響を与えたバッハの末っ子ヨハン・クリスティアンの鍵盤楽器用協奏曲全18曲が収録されている。
ヨハン・クリスティアン・バッハは、モーツァルトの作風に少なからぬ影響を与えたことでモーツァルトの研究者たちの間ではよく知られていた。
またこの録音集で特徴的なのは、ヘブラーがフォルテピアノを演奏していることで、それはピリオド楽器による彼女の唯一のレコーディングでもある。
まだフォルテピアノによる演奏が一般的でなかった時代にヘブラーがフォルテピアノを使って録音した点も、古楽器運動の草創期を知るうえでまたとない資料であろう。
フォルテピアノのメーカーや製作年代は明記されていないが、現代のピアノよりも音量が小さく軽やかで繊細な音色を活かした、これ以上美しい演奏は望めないくらい徹底して洗練されたスタイルがいかにも彼女らしい。
サポートはバロック音楽復興期の草分け、エドゥアルト・メルクス指揮、カペラ・アカデミア・ウィーンでクリスティアン・バッハのシンプルなオーケストレーションを控えめだが効果的にドライブして、ヘブラーのソロを引き立てながらギャラント様式の美学を模範的に再現しているところが秀逸。
ヘブラーはモーツァルトのピアノ音楽を得意とするピアニストだったが、1950年代末から活発化した古楽器運動の旗手の1人だったメルクスと組んでJ.C.バッハの協奏曲集を手掛けたことは、当時としてはモーツァルトの芸風が成立する前提を知るうえで非常に有意義なことであった。
モーツァルトのピアノのための作品の形成を辿る時、幼いモーツァルトがクリスティアン・バッハと彼の作品から受けたサジェスチョンは決定的なものだったことが理解できる。
モーツァルト14歳の時の3曲のピアノ協奏曲K107はクリスティアンのクラヴィーア作品に簡単な弦楽伴奏をつけたアレンジであり、彼が手本として学習していたことも明らかだが、モーツァルトのスペシャリスト、ヘブラーとしてはその源流を探る研究としての全曲録音だったのではないだろうか。
ヘブラーとメルクスの演奏は、アーノンクールらのような鋭角的なアプローチを採らず、典雅さを重視したスタイルで演奏している。
メルクスの刻むリズムは決して重くなることはないのだが、溌剌とした中にもどこか落ち着いた色合いを帯びている点はジャン=フランソワ・パイヤールに近い芸風を示していると言えるだろう。
しかし、ヘブラーのピアノは、モダン・ピアノ奏者にありがちな響きの粗雑さは巧みに避けられ、今日のフォルテピアノの専門家と比べても遜色がない。
この録音は、J.C.バッハのピアノ協奏曲集の解釈の基準として、今後も聴き続けられるであろう。
このシリーズの録音は1969年に開始され8年後の77年に終了した長期間に亘る企画だったので、決して片手間に行ったものではなく、本格的な研究の意図が窺われる。
タワーレコードからのヴィンテージ・コレクションの4枚組限定生産になる。
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