2019年04月04日
メータ全盛期の快演、白眉はシュタルケルと協演したブロッホの『荒野の叫び』
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デッカ時代のズービン・メータがイスラエル・フィルハーモニー管弦楽団を指揮したベルリオーズの『イタリアのハロルド』及びブロッホの『荒野の叫び』の2曲を収録したオーストラリア・エロクエンス盤。
特に後者ではメータによって引き出されるブロッホの鮮烈なオーケストレーションに支えられたシュタルケルの超然としたソロが印象的だ。
彼のチェロにはコダーイを弾く時に感じられる一種近寄り難い緊張感とオーラを放つような神々しさがある。
エルネスト・ブロッホのチェロとオーケストラのための交響詩はこれに先行してにヘブライ狂詩曲『シェロモ』があり、それは作曲家がソロモン王の彫像からインスパイアされた作品だ。
このディスクに収録された『荒野の叫び』は、イザヤ書で洗礼者ヨハネの到来を予言した『荒野に呼ばわる者の声がする。主の道を整えよ・・・』から着想を得た曲らしい。
どちらも旧約聖書に基く人物だが、作曲された1936年はヒトラーの独裁政権成立の2年後で、ユダヤ人だったブロッホはそうした迫り来る危機感を感じ取っていたのかも知れない。
1968年の録音だが鮮明な音質で作曲家のイメージしたであろうサウンドが燦然と映し出されている。
イスラエル・フィルも同胞の作品ともなれば、演奏上のモチベーションが上がるのは当然だろう。
デッカには同一メンバーによる『シェロモ』の音源もある筈で、そちらのCD化も望みたい。
ベルリオーズの方のソロはテル=アヴィヴ出身で当時イスラエル・フィルの首席ヴィオラ奏者だったダニエル・ベンヤミニで、彼はメータの推薦でパリ管弦楽団にも席を置いている。
ヴィオラをソロに扱う作品自体稀少で、しかも『イタリアのハロルド』は名人芸を披露する協奏曲のような作風ではなく、むしろオーケストラの充実ぶりを聴かせる曲であり、ロマンティックな雰囲気と色彩的な響きに、うねるような旋律が大きな魅力だ。
ベンヤミニのソロは第2楽章のカンタービレに彼の豊かな音楽性と流麗で温かみのある音色が相応しく、淀みのない安定したテクニックが冴えていて、メータが高く評価していたことを納得させる演奏だ。
ところで広範なレパートリーを誇る指揮者としてオペラにコンサートに精力的な活動を展開しているズービン・メータであるが、日本でその名前が知れ渡ったのは1960年代後半からのレコーディングによるところが大きいと言えるだろう。
ちょうどメータにとっても登り調子がとどまるところを知らなかった時期で、ここでも、豊かな表情付けと逞しい運動性、隅々まで血の通った新鮮な明るさ等々、デッカの優秀なステレオ録音も相俟って、この時期こそメータの最盛期とする世評にも思わず頷きたくなる快演だ。
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