2019年12月12日

歴史的意義と衝撃性、ロストロポーヴィチの代表作《ムツェンスク郡のマクベス夫人》


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早くからショスタコーヴィチのオペラ《カテリーナ・イズマイロヴァ》はオリジナルの方が素晴らしく、20世紀のオペラの名作だ、と主張していたロストロポーヴィチが、1978年に録音したのがこれだ。

スターリンによって不当に黙殺されていたオペラ《ムツェンスク郡のマクベス夫人》を、再び世に出し蘇生させることを願うロストロポーヴィチ夫妻の情熱と執念の強さが、ディスクの中から迸り出るような演奏である。

1934年にレニングラード(当時)で初演されたこの傑作オペラは、農村からシベリア流刑地までを舞台としたロシア・オペラ屈指の傑作ながら、不倫殺人を巡るテレビ三面記事的ドラマ展開のせいもあってか、その自然主義的表現と前衛的手法が「音楽ではないデタラメ」とロシア共産党からの批判を受け、そのまま封印されていた。

1963年に改題改作されて、いくぶん上品にして《カテリーナ・イズマイロヴァ》となって復活したが、それはオリジナルの凄さを薄めたもので、ベッド・シーンにしてもドタバタ・シーンにしても初稿のこちらの方が露骨で面白い。

その真価を世に知らしめたのが、ロストロポーヴィチとヴィシネフスカヤ夫妻によって初演44年後にセッション録音されたこの全曲盤であり、国際レコード批評家賞、モントルー国際レコード賞を受賞している。

体制に抹殺されていたこの傑作の最初の録音は、祖国を追われて間もないロストロポーヴィチがこの素晴らしいオペラを世に出そうという彼の意気込みと強烈な表現意欲が熱く伝わってくるし、ロシア的な濃厚さも、当然ながらいっぱいだ。

ロストロポーヴィチのダイナミックかつ繊細な指揮の下、悲しく激しい女の業を歌い上げるヴィシネフスカヤの絶唱を始め、ゲッダ、ペトコフ以下の名歌手達が、入神の演唱を展開している。

ロストロポーヴィチは鮮烈で刺激的な面に焦点を合わせて、聴き手を圧倒するが、指揮に乏しくなりかける人間的な視点をカテリーナを演じる夫人のヴィシネフスカヤが補ってゆく。

ユーイングとは全然違うヴィシネフスカヤの艶っぽいカテリーナは、こちらがもともと意図されたものか、と思えるところがあり、その官能性豊かな表現は見事なはまり役だ。

ゲッダのセルゲイもうまいが、指揮も含めて刺激的な場面での表現がやや感情過多に感じられるのは、管弦楽を抑え気味にした録音のせいもあろう。

新妻カテリーナが間男と図って夫に毒キノコを食べさせて殺してしまうという筋書きのこのオペラを、ショスタコーヴィチはこともあろうにフィアンセに献呈したのだそうだが、彼女はどんな顔をして聴いたのだろう?

優れたオペラに神話が必要なら、この20世紀の傑作は、充分すぎるほどの神話を持っている。

しかし、その神話から、これが前衛的で難解なオペラだと想像すると大間違いで、確かに挑発的だし、話は陰気で、聴いて心楽しくなるオペラではないけれど、実に聴きやすく、退屈しない作品だ。

これでいいんだろうかと疑ってしまうくらい、甘い音楽や官能的な響きで満たされている。

暗い物語にもかかわらず、考えようによっては、大変娯楽的で、悪女カテリーナの魅力にひかれて、その暗い結末までつきあってしまう、大衆性も備えたオペラなのではないだろうか。

世界中で急速に人気を得た理由が、聴けばよくわかる。

ロストロポーヴィチはチェリストとしても指揮者としても数多くの名盤を残しているが、歴史的意義と衝撃性において、これこそ彼の代表作であろう。

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classicalmusic at 14:25コメント(0)ショスタコーヴィチ | ロストロポーヴィチ 

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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