2022年03月08日
魂が張り裂けんばかりの悲痛さ、カラヤン、ベルリン・フィル最初期のバルトークとヒンデミット
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バルトークの《弦楽器、打楽器とチェレスタのための音楽》は、数年後にやってくる2度目の世界大戦突入への不安感に蔽われていた1936年に作曲された。
この〈緊張の時代〉を背負った作品の気分を正当に表現し得た演奏として、ナチの時代をしたたかに生き抜き、戦後十余年を経てベルリン・フィルを手中に収め気力の充実し切っていたカラヤンの、1960年の旧録音がまず挙げられる。
カラヤン盤の異常な緊張は、この曲の録音史上で空前のものと言え、楽員と一体になっての音楽の高揚は、時に魂が張り裂けんばかりの悲痛さを伴って、恐怖に近い感動を覚える。
カラヤンは若い頃から、バルトークの研究と演奏に情熱を燃やし続けてきた人で、彼の演奏は、バルトークに対する深い敬愛の念が込められている。
この演奏も、曲の核心に鋭く切り込んだ完成度の高いもので、ひとつひとつの音に精魂を込めながら、一分の隙もなくまとめあげている。
カラヤンはベルリン・フィルの威力を充分に発揮させ、精緻を極めた構成力と、じっくりと腰を据えた演出で、各部を入念に仕上げていて、色彩豊かで、スケールの大きい演奏だ。
全体にわたる緻密な構成と、ディテールの磨きのかかった切り込みの鋭さがクールでホットなバルトークの両面性を彷彿とさせ、この曲の内面性と外面性とのバランスが最もよくとれている。
この戦後の音楽界に君臨した巨人は、あたかも高度成長時代の申し子のように思われがちだが、この演奏は、戦争を知らない筆者のような世代の人間に、彼等が生き抜いてきた時代がどれほど苦渋に満ちたものであったかを伝える貴重なドキュメントだ。
カラヤンの手にかかると、あらゆる音楽が艶美な世界に結びつけられてゆくといった感がないではない。
このヒンデミットの交響曲《画家マティス》にしても、一方では極めて機能的な表現をみせながら、一方ではカラヤンならではの艶やかな語法もまじえながらその演奏が進められていることは否めない。
しかも、その録音は、ベルリン・フィルが彼と初来日した1957年になされているだけに、オーケストラそのものにも、ヒンデミットの強力な擁護者であったフルトヴェングラーの時代の影が確かに残されており、それがカラヤンの演奏に特質を生かしながら呼応しているようにもみえる。
第1楽章「天使の合奏」の天国的な響き、第2楽章「埋葬」の哀しみの場面の感動、そして第3楽章「聖アントニウスの試練」での聖俗あいまみえた魂のドラマが、カラヤンの多彩な棒で十全に描かれてゆく。
確かに素晴らしい演奏であることは疑いの余地はなく、この作品に親しむためには、好適な1枚ということはできよう。
カラヤンはバロックから現代まで、そのときの作品に適応するようにベルリン・フィルの自発性をひきだしてゆく指揮者だったし、楽員はそうしたことをはっきりとおこなってみせた。
バルトークやヒンデミットでの管や打楽器奏者は、カラヤンがいたからこそ自発性を持って卓越した技量を発揮できたのだろう。
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