2019年04月26日

早世した天才ピアニスト、ジュリアス・カッチェン、36枚のデッカ・コンプリート・レコーディングス


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ジュリアス・カッチェン(1926-1969)のブラームスのソロ作品については既に評価の高い6枚組のボックスがあったが、デッカへの録音全集は初めての企画で、ファンのみならず入門者にとってもバジェット・プライスによるボックス化が魅力だろう。

カッチェンの演奏には鋭利なタッチと幅広いダイナミズムが怜悧にコントロールされる部分と、それとは対照的に自由奔放で突き進むような即興性が共存している。

このセットでもモーツァルトでは洗練されたシンプルなリリシズムが美しいが、バラキレフの『イスラメイ』ではスリルに満ちたヴィルトゥオジティの披露にもずば抜けたサンプルを遺している。

それらは彼の類い稀な表現力によって相反することなく濃密なピアニズムを創り上げているが、常に明晰なアプローチでオリジナリティーを引き出すことを信条にしていたピアニストだけに、聴き古されたスタンダード・ナンバーでも、嫌味のないフレッシュで機知に富んだ解釈が特徴的だ。

カッチェンの神童期から磨いてきた技巧と知性に基づく壮健な解釈は、スタンダードな独墺の古典とロマン派に向いていた。

彼は爛屮蕁璽爛甲討瓩箸靴凸召鮹擇擦燭、これみよがしのテクニックでねじ伏せたり、自己陶酔的に押しつけたりはせず、終始、理知的に整然と演奏しながらも、深い洞察に満ちたデリカシーがじんわりと浮かび上がってくる。

勿論、超人的なテクニックがそれを支えていることは確かで、難曲で知られる『パガニーニの主題による変奏曲』など少しも力みがなく、殆どノー・ミスでサラリとこなしてしまうし、また巨大なピアノ協奏曲第2番では、ヴァイタリティに溢れたピアニズムで余裕綽々とオケに絡んでいる。

カッチェンはかつてないほど精密に、しかも美しくブラームスを鳴らすことができたが、そればかりでなく、すべてを見通し音楽を最後まで弛緩させることなく強力に押し進める集中力が漲っている。

さらには、彼の知的な素養からくるであろう文学性や詩的な感受性が過不足なくこれに加味され、比類のないブラームス演奏を成しているのである。

ベートーヴェンとモーツァルトのピアノ協奏曲も傑出しているが、前者では隅々までディテールがクリアーに立ち上がり、きわめてポジティヴな姿勢と相俟って、活力に溢れた若々しさが顕著、台風一過の爽やかさを思わせるものがある。

一方のモーツァルトでも、タッチの端正さは絶品で、何か物に憑かれたような張り詰めた表現が求心力を生み、一気に持っていく。

尚ヴィトゲンシュタインの委嘱作品になるブリテンの『左手のためのディヴァージョンズ』はプラガのリマスタリング盤の方が音質に優れているが、ムード変化激しく機知縦横のピアノ・パートをカッチェンが切れ味のいいテクニックで鮮やかにさばいている。

短かった生涯を精力的な演奏活動に捧げたカッチェンは同一曲を複数回録音していて、このセットでもベートーヴェンの『ディアベッリ変奏曲』を始めとする多くのレパートリーで2種類の音源を聴き比べることができる。

またアンサンブルにおいても高い音楽性を示した素晴らしい録音がデッカに集中して遺されているのも幸いだ。

スークと組んだブラームスのヴァイオリン・ソナタ集やシュタルケルが加わる同じブラームスのピアノ・トリオ集は現在でも最良の演奏のひとつに数えられるだろう。

カッチェンが20歳でパリに行き、直ちに彼の演奏が受け入れられてしまったのいうのは驚嘆に値する。

爛僖蠅僕茲織▲瓮螢人瓩箸い辰進珍しさからくる一過性の人気や評価ではなく、ヨーロッパ音楽の伝統や精神を真芯で捉え、正攻法でしかも鮮やかに表現しえたところに彼の最大の勝因がある。

カッチェンほどのステイタスで、パリを本拠にヨーロッパで地盤を築いたアメリカのピアニストは、彼の前にもなく後にもない。

40の声をきかないうちに、カッチェンは早くも最初の円熟期を迎え、肺癌のため42歳という働き盛りに世を去ったことは、楽界の一大損失として哀惜された。

88ページほどのライナー・ノーツにはインターナショナル・レコード・レビューのジェド・ディストラーによるカッチェンのキャリアが英、独、仏語で掲載され後半は収録曲のカタログになっているが、ボーナスCD36のデータはジャケットの裏面のみに表示されている。

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classicalmusic at 19:52コメント(0)カッチェン  

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classicalmusic

早稲田大学文学部哲学科卒業。元早大フルトヴェングラー研究会幹事長。幹事長時代サークルを大学公認サークルに昇格させた。クラシック音楽CD保有数は数えきれないほど。いわゆる名曲名盤はほとんど所有。秘蔵ディスク、正規のCDから得られぬ一期一会的海賊盤なども多数保有。毎日造詣を深めることに腐心し、このブログを通じていかにクラシック音楽の真髄を多くの方々に広めてゆくかということに使命を感じて活動中。

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